ニュー・ジャージー州には米国の他州には見られず、その他の外国にも例がない極めてユニークな制度が存在する。投資代替税と呼ばれる制度で、総粗収益の2.5%相当分を税として支払うか、同1.25%相当額を地域への投資に振り向けるかどちらかを事業者に選択させる手法である。後者を選択する場合、50年間に亘り、毎年アトランテイック市並びにニュー・ジャージー州他地域の社会資本整備事業等に出資する義務を事業者が負う考えとなる。この再投資義務を促進し、実際の投資配分や投資判断を決め、出資金相当分を出資させ、投資を管理する独立した州の機関として設立されたのがニュー・ジャージー州再投資開発機構(Casino Reinvestment & Development Authority, CRDA)である。17人の委員により役員会が構成され、有識者、議会、事業者代表、管理委員会代表、アトランテイック市長、州財務長官、州検事総長等がその構成員となる。カジノで得た収益を、民間による収益と認めつつも、税ではなく、再投資義務を課すことにより、地域社会に還元させるという手法でもある。勿論これは寄付ではなく、出資行為となるため、出資持分保持のための協定を締結するとともに、当然のことながら配当もある(よって、事業者から見た場合、必ずしも利幅が良いわけではないが、あくまでも会計上は公益的な事業に対する投資であって、公租公課ではない)。
この仕組みにより、巨額の資金が地域の社会資本整備の財源になることになった。法律により、制度の趣旨がアトランテイック市再生である以上、当初の3年間は、全てアトランテイック市の公共住宅、様々な公共施設や関連インフラにのみ投資された。以後、段階的に同市への投資分を減少し、州内を南と北の二つに分け、これらの地域への社会資本整備投資を段階的に増やしていくことで、州内の不平・不満が起こりにくい仕組みとした。税ではなく、あくまでも民間主体による地域への還元投資になり、しかも通常の場合ではリターンが低く、実現しにくい公益的施設等の民主体による整備・運営を企図し、これを実現したことになる。
このCRDAは通常の市場の条件では資本が集まらない公共性の強い事業に対し、出資、債券、融資、無償援助などで支援する。対象となる事業は、①地域住民の緊急な経済的社会的ニーズを満たす事業(スーパーマーケット、商業施設、デイケア福祉施設、若者市民センター、公園、市民会館等を含むがこれだけではない)、②疲弊・再開発対象地域を改善する包括的事業の一部、③観光産業を支援する広告並びにエンターテイメント施設、④住宅、⑤公共輸送施設、⑥コンベンション施設、⑦製造、産業、商業、リクリエーション、小売、サービス施設等になる。CRDAはまた、議会が個別に州法で定めた特定の財源から得られる資金を収受し、管理する義務を担っている。これには下記などがある。
① カジノ資本建設基金、アトランテイック市拡大基金:
他州の競争に勝つため、既存のカジノ施設の拡張等に投資し、支援する為の基金となる。駐車場税の増税分($1.5)の一部財源をCRDAが発行したカジノ資本建設基金3,400万㌦債券の償還原資とし、ホテル部屋税($3)の一部財源をアトランテイック市拡大基金6,200万㌦債券の償還原資とした。
② カジノホテル拡張基金:
1993年に1億㌦、96年に7500万㌦をホテルの部屋不足解消の為の資金として投資したもの。
③ 回廊プロジェクト基金
アトランテイック市の回廊部分の交通インフラ、経済開発事業に投資する1.7億㌦債券の為の基金で償還財源として、一部駐車場税を充当したもの。
④ 北ジャージー、南ジャージー事業基金:
2004年に南ジャージーと北ジャージー地区の経済開発事業に投資するために3,100万㌦の債券を発行し、ホテル税の一部財源を償還原資とした。
⑤ ボード・ウオーク再生基金:
2004年1億㌦のボード・ウオーク再生基金債券を発行したもので、カジノ施設による任意寄付と市の開発投資勘定が償還原資となった。
⑥ CRDA都市活性化基金:
2001年に制定された税インセンテイブ・プログラムでアトランテイック市に新たなエンターテイメント施設や小売施設の設置を促すことを目的とし、特定地区への投資等に対し、一部税の還付を認める仕組みである。
即ち、税ではなく、公的機関が発行する低利の債券をカジノ事業者が購入することで再投資したり、CRDA経由、様々な資金調達に参加したりして、地域の再開発投資に参画するという仕組みになる。税や賦課金ではなく、あくまでも再投資として市場のメカニズムをうまく活用し、事業者が協力しやすい仕組みにしていることになる。また、結果的に一部投資はカジノ事業者の運営にも資する内容のものとなっている。投資(債券発行)に対しては償還財源を明確化しており、CRDAにとり返済遡及のない債券として、確実に債券が売れる仕組みを前提としている点、興味深い。