米国ネバダ州では下記の考え方がゲーミングに係る公共政策の基本とされ、同州の憲法に規定されている(463.0129(1)条)。
(a) ゲーミング産業は州の経済並びに住民の一般福祉に関し、極めて重要な産業である。
(b) ゲーミングの継続的な成長と成功は、下記を公衆が信頼し、信任することによりもたらされる。即ち、i) 許諾されたゲーミング、使用される器具・機械等の製造、販売が競争環境のもとに、公正に施行されること、ii) ライセンスを保持し、器具・機械等を所有する施設が、近隣住民が享受している生活の質に不適切な影響を与えないこと、iii)ライセンス保持者の債権者の権利が保護されること、iv) ゲーミングに犯罪や腐敗の要素がないことである。
(c) 公衆の信頼と信任は、許諾を受けたゲーミング施設の運営に係る全ての個人、施設、慣行、連携、活動、及び、ゲーミング機材並びに関連する機械の製造、販売、流通並びにカジノ施設間の連携システムの運営に対し、厳格な規制を維持することにより初めて取得できる。
(d) ゲーミングが施行され、ゲーミング器具が使用される全ての施設、特定のゲーミング機材・器具の製造家、流通者・販売者及びカジノ施設間連携運営事業者は、公共の健全性と安全性、モラル、秩序、州民の一般福祉を保護し、ゲーミングの安定性と成功を醸成し、ネバダ州の自由競争施策と競争的な経済を保持するためにライセンスの対象となり、かつ管理される。
(e) ゲーミングが、正直にかつ競争的な環境で行われ、犯罪や汚職の要素なしに実施されることを担保するために、州内の全てのゲーミング施設は、法が規定する以外は、一般公衆に対し、開放的であるべきで、一般公衆のゲーミング活動へのアクセスは制限されてはならない。
上記は、同州におけるゲーミング規則、ゲーミングに関し何らかの判断を求められる場合、常に参照され、尊重されるべき基本的な考えとなっており、ここに全ての制度、規制に係わる背景となる考え方を見ることができる。勿論かかる方針が最初からあって制度が作られたわけではない。長年にわたる実際の政策の遂行に基づき、あるべき考え方、方針として、段階的に醸成され、州民の同意を得て、制度の前提としてまとめられた考えでもある。
この考えは、ゲーミング産業を一つの産業として認知し、その育成を図るとともに、地域社会との共生や、住民による信頼と信任を取得するために、その健全性と安全性を担保するためのあらゆる措置を政府としてとるということでもあろう。この背景には、犯罪や腐敗、汚職の根を根絶すれば、確実にゲーミング産業は健全化できるとともに、逆に何もせずに放置した場合には、かかるリスクもありうるという認識がある。勿論上記は1960年代以降のネバダ州の経験と実践から政策として策定されたもので、それ以前は、ネバダ州でも歴史的に賭博行為を単なる悪ないしは迷惑な行為と見なす傾向があった。当時、ネバダ州最高裁では、ゲーミングを「悪の根源」とし、カジノを「怠惰と無秩序をもたらす迷惑な行為」と断定した判例もあった程である。また、米国連邦最高裁でも類似的な判例が下されたことがある。
これは、米国においても、わずか半世紀前には、やはり一般大衆の賭博行為に対する感情的なアレルギーや、これを社会的退廃とみる倫理観が根強く社会の中に存在していたことを物語っている。国民の大半が賭博行為を悪とみなしていた以上、一定の正当性の枠組みを保持しながら、実態を健全化していくためには、適切かつ厳格な規制が致命的に重要であったことになる。 かつ、厳格な規制がしっかりと施行されることにより、賭博行為の健全性、安全性に係わる国民の認知度が向上したことも事実である。これにより、時間をかけて、段階的に実績を積み、国民のパーセプションやアレルギーを変えていったというのが米国における許諾賭博の現実である。米国の制度や規制の仕組みは、ある日突然できたわけではなく、時間をかけてその内実が段階的に、かつ緻密に構成されてきたことに留意する必要があろう。