通常のゲーミング賭博施設は陸上設置型のカジノであり、制度的には州政府による立法措置に基づく免許(ライセンス)により、設立され、管理されるとともに、州政府が法の管轄権を保持する。陸上設置型と定義したのは、移動可能な船舶の中において、賭博行為を提供するゲーミング賭博の類型が存在するからである。ややこしいことに、これには複数の種類があり、制度的背景も異なる。
後者となる可動式船舶上でなされるカジノ施設には下記類型がある。
① リバー・ボート・カジノ(Riverboat Casino):
河川を就航する船舶の中においてのみ賭博行為を認める考えのゲーミング施設をリバー・ボート・カジノと呼称する。基本的には可動式船舶であり、移動可能で、かつ移動中おいてのみその船内でゲーム運営ができるという考えになる。施設としては船舶そのものであり、全く別体系となる船舶に関する法律の規制を受ける。勿論航行のための船長、船員も別途必要となる。一方船舶は、一定の港を係留地とし、顧客を募り、乗船させるため、ゲームの許諾は、係留地点のコミュニテイーの同意を得て、このホスト・コミュニテイーに対する一定の税収配分も考慮しながらなされることが多い。米国ではミシシッピ川流域、5大湖周辺で、限定的に発展した考えになる。
② 賭博船(Gambling Vessel):
一定の港を停泊地としつつも、ある州の港から出港後、3海里外洋を航行し、米国の領海を離れ、公海に出た後で、専ら顧客に賭博行為をさせ、一定時間航行後、また同じ港に戻ってくる船舶のことを「目的地の無いクルーズ船」(Cruise to Nowhere)あるいは単純に賭博船舶(Gambling Vessel)と呼称する。米国では1951年の連邦「賭博関連器具輸送法」(通称ジョンソン法15 U.S.C. Sec 1175)により、船舶上の賭博行為は認められていなかったが、1992年の同法改正により、州政府の判断により、賭博船舶による賭博行為が可能となった。ジョンソン法では、米国の領海並びに特別海域において、賭博機材を製造、調整、補修、輸送、所有ないしは利用することを禁止している。一方1992年の同法改正により、州法が、同法の適用除外を規定しない限り、賭博船舶による賭博行為は自動的に認められることになった。その後連邦法規定が州法に優越するか否かが訴訟上の争点になり、1999年「賭博船舶法」(Cruise to Nowhere Act)により、賭博船舶に関する管轄権は、連邦政府から州政府に移管することが定められた。よってかかる類型の船上賭博を認めるか、規制するかは全て、州政府の管轄事項となる。尚、連邦政府司法省は、ジョンソン法の上記規定は外国籍船には適用されないという解釈を従来からとってきている)。上記制度に基づき、フロリダ州、アラスカ州を初め、ジョージア州、ニューヨーク州、バージニア州、マサチュセッツ州、サウスカロライナ州などの港を出港地とする、賭博船による賭博のためのクルーズ船が誕生している。ややこしいのは、領海外の行為は、通常の連邦法や州法の規制外の活動になってしまうことにある。公海上であるために、米国の州政府、連邦政府は法律上の課税権や管轄権がないが、一方、領海内における消費行為等は課税の対象になってしまう。また、公海上で課税できないならば、停泊地で州政府が代替的な課税をすること等がアラスカ州では実践されている。
③ 外洋にでるクルーズ・カジノ (Ocean Cruise Casino、Deep Sea Cruise Casino):
クルーズ船とは、1)最低24時間航行し、全ての顧客に食事と宿泊を提供する船舶、2)ないしは外国の港に停泊する船舶と連邦法上定義されている。現行連邦法では、外国籍船並びに米国籍船による米国領海外の賭博行為は認められている。これに伴い、クルーズ船内にて行われるカジノがクルーズ・カジノでもあり、閉鎖空間であるクルーズ船においては、従来からかかる賭博行為が慣行として提供されてきた。これが制度的に米国籍船で認められたのは、1990年「米国籍クルーズ船競争法」(US Flag Cruise Ship Competitiveness Act)による。領海外であっても、米国籍船ならば米国法が適用されるため、外国籍船との競争で不利にならないようにとの制度的配慮になるが、連邦政府が課税権を行使するわけでもなく、船舶は独自の船内秩序を維持するシステムが存在するため、何らかの規制機関がこの運営に関与しているということではない。施設規模からした場合、とるにたらない船内遊興となるのだろうが、制度・規制の側面からはループ・ホールとなってしまっている事象となる。もっともアジア諸国では、クルーズ船でありながら、よりカジノ船に近い中間的な船舶類型が生まれている。こうなると売上規模もかなりのものになると共に、果たして公正なゲームが提供されているのか否かの懸念も存在するのだが、これを検証する手法は存在しない。