賭博依存症のカウンセラーとは、精神疾患となる賭博依存症の症状を呈する個人のカウンセリングを担う専門職である。その主たる業務は、対象患者の症状の特定(スクリーニング)、指導、診断・評価及び治療・回復計画の策定、個人・グループ・家族に対するカウンセリング、ケース・マネージメントの実施、危機的な状況の場合の介入、教育・防止・抑止活動、他の専門家との協働によるこれら業務の実施等になる。米国では賭博依存症のカウンセラーに関しては、国レベルでの制度的な資格認定をする枠組みは存在せず、①州政府レベルでの資格認定の仕組みと、②民間団体(NPO)による資格認定の仕組みとの二つが存在する。州政府の場合には、州の一機関であもる非営利の資格認定機構(Certification Board)がこれを担うのが通例で、薬物・アルコール依存症等その他の資格認定と共に、認定賭博依存症カウンセラー(Certified Gambling Addiction Counselor)の資格認定をも行っている例が多い(一定の実践経験が要求され、教育・訓練プログラムも存在するが、これに加えて、筆記・面談の試験もある)。州政府単位での資格認定は、本来専門資格として同じであるべきなのに、どうしても州毎の認定基準にばらつきが生じ、専門性に係る共通基盤が無いことが欠点になる。
一方、民間の非営利団体が行っている資格認定は、上記を補うもので、共通的に必須となる経験・能力(コンペテンシー)に関する共通的基盤を定義し、カウンセラーの一定の品質と臨床能力を確保することを目的とした資格認定の仕組みになっている。これら非営利の民間団体は、州単位ではなく、全米規模で実施していることがその特徴になる。多くの州の資格認定機関は、これら非営利団体の資格認定基準を認めることを表明しており、実質的にこれら非営利団体の認定がベースとなり、これに加えて個別州の事情等を加味した上で、州毎の認定がなされるという仕組みになっている。勿論、この非営利団体の試験・資格を取得することが州単位での資格認定の条件になるわけではない。 但し、国としてのカウンセラーの共通的な制度は無いために、民間団体の経験と知恵をうまく取り入れ、最大公約数としての必須レベルを定義し、各州の実態や実状に合わせて、適用できるようにしている考えになる(一方、薬物・アルコール等の認定カウンセラーは、国の機関であるSubstance Abuse & Mental Health~SAMHSA~ が資金を拠出し、全国的なネットワークとなる「依存症技術移転センター・ネットワーク」(Addiction Technology Transfer Center Network)が組成され、これが各州の認証機関とリンクし、カウンセラー認証を行うシステムが構築されているのだが、賭博依存症に関してはかかる仕組みは存在しない)。
上記の意味で資格認証を行っている民間の主要な非営利組織には下記が存在する(尚、州によっては、特段の賭博依存症カウンセラーの資格認定を行っていない州もあり、その場合には、下記二つの全米規模で行われているカウンセラー認証取得が推奨されていることが多い)。
① 賭博依存症カウンセラー国際資格認定機関(IGCCB):
~International Gambling Counselor Certification Board~
民間非営利団体である全米賭博依存症評議会(NCPG~ National Council for Problem Gambling、在ワシントンDC)が事務局となり、米国内、海外を含め、一定の資格判断基準の下に、教育訓練の実施及び資格認定制度を設けているものである。資格要件としては大卒ないしは同等の学位を持ちレベルIのカウンセラーの場合、30時間の賭博関連の教育、最低100時間以上の賭博依存症患者の臨床経験を保持していることが必要とされる(レベルIIのカウンセラーの場合には、60時間の教育、最低2000時間の臨床経験とハードルは高くなる)。これら要件を満たす場合、試験が実施され、資格が認定される。尚、資格取得後も、3年毎に再認定を受ける必要がある(60時間の教育訓練、1年以上のフルタイムでの経験ないしはカウンセラーとして年2000時間の実績が必要となる)。
資格にはレベルI,IIと共に、国際カウンセラー資格の三つが存在する。
✔ NCGC-I (国家認定賭博カウンセラーI,National Certified Gambling Counselor I)
✔ NCGC-II (国家認定賭博カウンセラーII、National Certified Gambling Counselor II)
✔ ICGC-I (国際認定賭博カウンセラーI,International Certified Gambling Counselor I)
② 全米賭博依存症カウンセラー認定機構:
~American Compulsive Gambling Counselor Certification Board~
ニュー・ジャージー州に本拠がある非営利団体であり、上述したNCPGと比較すると認定基準や要件は若干緩くなる。申請者はこの機構が提供する142時間のコア・カリキュラムを受講、180時間の教育を受け、かつ750時間の臨床経験があることが要求され、上記と同様試験により、資格(Certified Compulsive Gambling Counselor Certification)が認定される。資格は3年間有効で初回、二回目の再認定に際し36時間の講習、3回目以降の更新には22時間の講習を必要とする。
カウンセラー資格認定制度は、具体の実践ニーズから生まれてきたもので、臨床経験に基づく実践知識が資格認定の判断基準になっている。一定の知識体系も必要だが、知識だけではカウンセリングはできないわけで、実践を積み重ねる必要があることになる。上記米国の経験は諸外国でも適用できうる基本となる考えでもある。