現代米国社会において、ゲーミング・カジノが最初に制度として認められた州はネバダ州で1931年になる。もっともカジノが本格的なブームとなったのは、同州のラスベガス市で、第二次世界大戦後の1950年代以降であり、現代に連なる制度や規制の考え方が整ったのは1955年以降でしかない。その後、二番目に許諾の制度ができた州が1976年のニュー・ジャージー州で、アトランテイック市に実際のカジノ施設がオープンされたのは1978年になる。60年代、70年代の過半の時代は、米国においてもゲーミング・カジノはラスベガスしか実質的に行われていなかったことになる。これは、①この段階では、まだマフィアが直接的、間接的に社会に存在したこと、②悪や組織悪を追放する制度の枠組みは段階的に出来つつあったが、完璧ではなかったこと、③正当な企業がこの分野に参入できる合理的な仕組みは60年代末から70年代にかけてになり、ようやく出来始めたばかりで、この定着には時間がかかったこと、④市場はまだ発展段階にあったこと等という経緯があったためである。この意味ではニュー・ジャージー州における制度の枠組み構築は、これら経験を踏まえ、完璧を企図した規制や制度となっており、以後の様々な州、国による制度構築のモデルともなった。そのインパクトは大きく、かつその成功が、70年代以後様々な州や国により模倣されていくことになる。
米国においても、ゲーミング・カジノは安心、安全という国民の信頼を得るためにはやはりかなりの時間と手間を必要としたということでもあろう。その他の州は80年代末から90年代にかけて、この経験を踏襲して、次々と制度化を実現することになった。現在では、所謂商業的賭博施設としてのカジノを認める州は下記となっている。当初は河川を航行するリバーボート・カジノにより限定的になされたが、段階的に様々な施設類型が認められていったという経緯になる。(競馬場併設スロット・カジノであるレーシーノやスロット・カジノを含めて)制度が創出された年順で、これら州を列挙すると、1)ネバダ州(1931年)、2)ニュージャージー州(1976年)、3)アイオワ州(1989年)、4)サウスダコダ州(1989年)、5)イリノイ州(1990年)、6)ミシシッピ州(1990年)、7)コロラド州(1990年)、8)ルイジアナ州(1991年)、9)ロードアイランド州(1992年)、10)ミゾウリ州(1993年)、11)インデイアナ州(1993年)、12)西バージニア州(1994年)、13)ミシガン州(1996年)、14)デラウエア州(1994年)、15)ニューメキシコ州(1997年)、16)ニューヨーク(2001年)、17)ペンシルベニア州(2004年)、18)オクラホマ州(2004年)、19)メイン州(2004年),20)フロリダ州(2006年)、21)カンサス州(2007年)、22)メリーランド州(2008年)、23)マサチュセッツ州(2011年)となり、制度化・法制化を議論している州も多く、今後も増える可能性が高い。
これら商業的ゲーミング・カジノ施設のあり方は州によっても異なり、1)場所、地域、場合によっては施設数を限定していること、2)特定のカジノ施設のあり方を規定し、何でもありではないことが一般的となる。複数のカジノ施設を特定地域において集合的に設置することを認めたのは、ニュー・ジャージー州(アトランチック市)、ミシッシッピ州(チュニカ、ビロクシ市)だけであり、その他の地区は、いずれも集積度は少なかったり、地域的には単発施設であったり、あるいは、複数施設を地域的・地理的に限定して施行を認めたりしている事例が殆どである。この意味では、自由にいくらでも施設を乱立できる、あるいは競合できるという状況にあるわけではなかったことになる。いずれの場合にも制度としては、1)独立した行政委員会を規制機関として設け、規則制定、許諾権限等を付与すると共に、2)既存の公安・警察機構に新たに専任組織を設け、申請に際しての背面調査や法と規則の厳格な執行に当たらせるという考え方が基本となっており、ここには類似性がある。
一方、1987年に創設された連邦先住民ゲーミング規制法(IGRA法、Indian Gaming Regulatory Act, 公法100-497, Title 25 USC Sec 2701)に基づき、90年代以降は、上記を含めた全米の殆ど全ての州において、先住民部族カジノ施設が州政府と個別部族との同意に基づき段階的に実現していった。実際に設立された先住民部族カジノの総数は、90年代、2000年代と飛躍的に増大し、今日ではその総数は通常の商業的カジノ賭博施設と類似的なレベルまでになりつつある。この意味では、商業的カジノ賭博と先住民部族カジノ賭博を切り分けて考えても意味がなく、例え州法としては商業的カジノ賭博施設が認められていなくとも、現実的には巨大な部族カジノ施設が州内に存在している以上、賭博行為が認められていないという状況ではありえないことになる。但し、制度や規制の仕組み、監視の仕組みは両者の間では大きく異なる。もっとも、顧客から見た場合、そこになんらかの差異を認識することは極めて難しい。
このように、米国では複数の制度により重層的に現実の施設が存在し、かつ管理されているという市場構図になり、かなりややこしい現実が存在する。