では、カジノ・ゲーミング施設とは、施設の在り方や特性としてはどう発展してきたのであろうか。カジノのゲームのパターンやゲーム種の本質は歴史的に大きく変化しているわけでは無い。機械ゲームが存在しない時代のカジノとはあくまでも各種テーブル・ゲームを中心とした極めて小規模の施設でもあった。一方現代社会におけるカジノとは20世紀初頭以降、テーブル・ゲームと(電子式)機械ゲームを一定割合で配置する施設パターンとなり、かつ施設規模としてはかなり大きなものになりつつある。施設としてのカジノは、当初あくまでも単純遊興施設として発展してきたのだが、一部欧州ではこれだけに終わらず、ホテルや様々な余暇施設やアメニテイー施設が併設されてきたという歴史的経緯がある。余暇をすごすための多様な遊興施設群の中の一つの選択肢として発展してきたことになるが、単純賭博目的ではない併設的なサービスを提供する施設群とした方が、集客力と収益力を向上できたからでもあった。
米国においても19世紀の大都市に、サロンと呼称される小さな賭博場と共に、ホテルやその他の多様なサービスを提供する施設を併合した施設類型が存在した。但し、限定的な遊興施設でもあり、一般的なものとはならなかった。単純な遊興施設としてのカジノが多様なサービスを含む本格的な複合レジャー施設として更に発展していったのは、第二次世界大戦後の話になり、米国ラスベガスを契機とする。即ちカジノだけではなく、ホテルや劇場、プールやその他の遊興施設を併設し、一定期間滞在できる施設とし、著名なエンターテイナーによるショーや人をあきさせない演出等により、カジノだけではなく、カジノとのシナジーをもたらすエンターテイメントを提供する施設として発展していったわけである。勿論従来タイプのゲーミングだけを提供する施設もあれば、一定部屋数のホテルを併設する類型も多くできた。50年代から60年代にかけて発展したこのような仕組みの基本は①できる限り顧客を長く滞在させること、②顧客を集めることの施設やサービスの魅力と差別化に工夫を凝らすこと、③そこにしかない独自性により、集客力を更に向上させること④顧客にあらゆる支出を促す仕組みがあること等にある。現代に見るリゾート施設の根源的な姿がここにある。
この基本的な考えは、70年代から90年代にかけて、更に発展する。施設の大型化、複合化が進み、単純なギャンブラーのための施設から、一般観光客、コンベンション客やビジネス客を取り込む様々な施設や仕掛けが併設されていったことがその理由になる。大型コンベンション施設や会議場、イベント用のアリーナ等の併設は、併設ホテルを更に大きくすると共に、関連するサービスやアメニテイー施設、常設となるエンターテイメント・ショーの質を向上させた。またショッピング・モールや多様な飲食施設も併設されている。90年代より現在までの興味深い動きは、これら複合施設のテーマ性にあり、一定のテーマに基づき施設やアメニテイー、無料のテーマパーク的アトラクション等を付加価値として、施設群につけたものになる。段階的にこれら施設はファミリー・リゾート化しているわけで、カジノを核としつつも、家族全員が参加できる施設類型に変化してきたともいえる。いずれもコンセプトは、①滞在日数を長く、滞在者を多くという考えでもあり、②老若男女すべてに対応できるリゾートのメニューを揃え、③複数の施設が相乗効果をもたらし、これが消費を活性化させるという考えに立脚している。この場合の収益の核はカジノ・ゲーミング賭博ではあるが、付帯施設やサービスも同等に事業性があることが前提になる。米国ネバダ州ラスベガス市では、事業者の全体売上げの中でゲーミング関連収益は約40%強、残りの60%はゲーミング外収益になり、後者は宿泊、飲食、物品販売、ショー等多種多様なアメニテイーの組み合わせがもたらす収益となる。カジノだけではなく、カジノ外の収益要素が大きいが、カジノがあるからこそこれだけの収益を上げられるということであろう。かつ消費単価の高い上質の顧客を集客できているという事実もある(歴史的には、ゲーミングの売上げは年毎に増加してはいるのだが、ゲーミング外の売り上げ・収益はこれより高い成長率で増大したという経緯になる)。
上記発展に伴い、かかる複合観光施設の初期投資額は、施設整備の巨額化と共に、高騰し、かかる施設の整備には巨額の資金調達が必要となる時代が到来している。尚、殆どの施設のゲーム・スペースのあり方は、基本的には①単層構造であること(複数の階層に亘ると監視や管理が難しくなるという事情による)、②無窓、無柱空間であること(異次元空間を作りだせることがゲームに熱中させ、消費効果を高める、即ち時間を忘れさせるということから、窓をなくした空間にすることが多い。また構造的に無柱空間とするのは、監視カメラによる死角を一切なくし、全てを天井に設置されたビデオで監視することができるようにするためでもある)。効率的な営業や監視という点では確かにかかるあり方が最適ではあろうが、大量の顧客を集める集客施設である場合、安全等への配慮も施設的には重要になってくる。火事や事故等の場合の非常時における避難路や退避の手法等についても、一定の規制があると共に、様々の現実の施設は、施設の在り方に工夫をこらしている。