如何なる国においてもゲーミング・カジノの制度を創出することは、これを実現するという立法府ないしは行政府による強い政策的意思があり、初めて可能になる。この政策目的を為政者が主張し、国民がこれを理解し、支持し、初めて制度は実現する。従前は、これらの政策目的として、経済活性化、地域再生、雇用増大、観光客増などの様々の諸施策がバラバラに主張され、これがゲーミング・カジノを認めるという政策目的でもあった。もっとも一国の国民がこれを認知し、賭博行為を認め、その存在を支持するか否かは全く別の話となり、隣はいいが、自分のまわりは駄目という地域的見解もありうる。地域住民の全てがその効果を積極的に認め、カジノの存在を支持しているというわけにはならないのが現実なのだろう。米国における民間事業者団体である米国ゲーミング協会(AGA)は、毎年アンケート調査を実施し、米国民によるゲーミング・カジノの社会的許容度を定期的にチェック、公表している。この結果によれば、あの米国ですら、ゲーミング・カジノが地域社会に認知され、その効果が住民により積極的に評価されるようになるためには、長い時間と実績を必要としたということが明らかになっている。また如何なる社会においても、宗教的信念や倫理観などの理由により、一定数の賭博反対層は少なからず、常に存在する。
ゲーミング・カジノの地域社会における一定の貢献やプラスの経済効果は、時間をかけなければ中々立証できるものではない。よってこれは実現できる前の段階では、説得力に欠ける。一方、目に見える貢献や効果が現実に地域社会に生じている場合には、説得はしやすくなる。問題は目に見える説得材料が未だ無い場合にあり、この場合には、国民や地域住民がゲーミング・カジノに抱くパーセプションが大きな課題になってしまう。一国の国民がゲーミング・カジノに対し、如何なるパーセプションを抱き、如何なる判断をしているかに関しては、データも資料も無く、理解することは難しい。国民や地域住民は必ずしも合理的な判断ができるに十分な情報や知識を保持しているわけではない。また、さまざまなファクターによりこのパーセプションは影響を受けやすいというという事実も理解する必要がある。カジノ施設における快適性、健全性、安全性などを住民自身が確認し、雇用や税、消費、来訪客の増大など地域社会の構成員にとり目に見える経済的貢献をどう訴え、可視化することができるかが住民のパーセプションを段階的に変えて行く効果をもたらすことになる。内、健全性、安全性等はしっかりとした管理や規制の体制ができていることが要件になる。目に見える貢献とはやはりカジノ側の財政的貢献が如何に地域社会に注ぎ込まれるかを説明し、これを実現することなのであろう。
尚、制度を新たに設ける場合には、住民や国民の理解や支持を得るハードルはより高くなる。この場合は、あるべき地域貢献や地域対策に関し、具体的な施策案を提示し、その実現を図るという前提で地域社会の支持と理解を取り付ける必要がある。但し、地域住民のパーセプションを短期間に変えることは難しく、時間をかけて、段階的に理解を得る様々な努力をする必要があるのだろう。一定地域に存在するゲーミング・カジノ施設は、地域住民の合意形成を得て、その支持と信頼を持続的に保持しない限り、必ず何らかの問題を起こすことになる。もし、施行している間に、住民による反対運動が起これば、顧客の離反を招き、カジノの存続自体に大きなリスクを抱えることになってしまうからである。
一部の欧州大陸の国では地域社会への貢献がカジノ許諾の一つの要件になるという制度的規定を設けているという事例がある。例えば、フランスでは国から許諾を取得する前に設置の場所を管轄する基礎的自治体(コミューン)と民間事業者が協定を締結し、この中で地域貢献義務を契約的に取りきめ、かつ基本的な地域との合意形成を予め取得することが政府に対し許諾を申請する前提条件となる。また、スイスでも当該施設が立地する地域社会(コミューン)による許諾を民間事業者が取得することが政府への許諾申請の要件ともなった。但し、実現後も地域社会に溶け込むために様々な地域活動への資金援助や地域貢献活動を実質的に要求されており、これにより、地域社会の積極的な支援を得ていることになる。事業性と社会的貢献とのバランスが保持されている限りにおいて、かかる施策はおかしな考えではなく、極めて現代的な商業的賭博の一側面をも表しているともいえる。