国の場合には制度上の措置により規制機関の設置とその維持に伴う規制の費用を回収することができる。では、地方公共団体の場合には、地方公共団体に発生する費用の回収や、民間施行主体との税・交付金以外の様々な金銭のやりとりはどうなるのであろうか。地方公共団体も事業を計画し、実現し、当該地域においてカジノの開発、整備、運営を担う民間事業者を誘致する仕組みを創設する場合、その計画から実現までの間に様々な諸費用の負担がありうる。これら費用は、地方公共団体と施行者との間の協定の枠組みの中で、施行者から回収すること等が考えられる。
これには下記可能性がある。
① 開発費用分担:
地方公共団体は、制度上の複合観光施設区域の開設者でもあり、この考えを構想、企画し、実現するまでの間に、専門的なコンサルタントやアドバイザー等を活用せざるを得ず、様々な開発関連費用負担がかかってしまう。しっかりとしたプランを策定するためには、当然必要となる諸経費でもあろう。もっともかかる費用を税で負担することはいかがなものかとする声があることも事実であり、国が規制機関の費用を施行者に徴求するのと同様に、地方公共団体が自ら負担した過去の費用を施行者から回収することは、おかしな考えではない。構想・計画から、入札・契約に至るまで、地方公共団体が負担することになる費用は馬鹿にならない程巨額になる。これは下記方法等により、段階的・部分的にあるいは、一括して回収することができる(如何に回収できるかは、民間主体による負担の許容度にもより、事業の大きさ、事業性、および費用の控除可能性等にも依存する)。
✓ 入札書類購入費として一部経費を回収することを企図し、その旨公告に規定する。但し、この場合、全ての諸費用を回収することは難しい。
✓ 公募の結果、落札者に契約後一定期間内に一時金として全額、あるいは分割して過去の経費を支払わせることとし、予め募集要項にて金額、条件等を定める。
✓ 運営開始後、民間施行者が実際に収益を上げてから、過去に遡った諸費用を一括ないしは分割して負担させる枠組みを契約にて取り決める。
② 周辺インフラ施設整備費分担:
複合観光施設は巨大な集客施設群になることが想定され、地方公共団体が、施設整備に合わせて周辺の関連インフラ施設(アクセス道路、鉄道等公共輸送システムや駅舎、上下水道、遊歩道、周辺環境整備に関する諸費用など)を公共工事として整備せざるを得ない状況が考えられる。地方公共団体の財政的負担を軽減し、かつ施設の早期実現を確実にするため、これら工事費用の一部を民間施行者が分担し、施設を整備し、完工後、当該施設を地方公共団体に資産を無償譲渡する等の負担の在り方もある。あるいは単純に公的主体が担う整備費の一部を分担金として支払いを求めるという考えもあろう。但し、単純に民間施行者が公共工事を代替できると考えたり、何でもありと考えたりすることは適切ではない。想定収益規模や税率や負担の多寡次第では、問題外となることもある。
③ 規制の費用分担:
地方公共団体は、複合観光施設区域の実現を企図する実質的な開設者である以上、地域社会にとっての公共安全の保持、善良なる環境の維持は大きな関心事になる。規制や監視は基本的には国の規制機関が担うとはいえ、都道府県警察と何らかの協力の枠組みを追加的に措置したり、地域社会独自の規制や環境保持の枠組みを構築したりすることはありうる。この場合、地方公共団体が、都道府県警察や国の規制機関と共に、規制や監視に一部関与することになる。例えば地域住民による過度の賭博への参加を規制するために、地域独自の参加ルールを設けたりする場合や、地域社会の代表や有識者、カジノ施行者、都道府県警察を交えた、環境改善や意見交換、住民の意見を吸い上げる為の定常的な行政委員会を地域レベルで設けたりする場合等である。法が認める範囲内で、地方公共団体が一定の規制や規律を条例で制定したり、あるいは民間事業者との契約行為の枠組みでこれを取り決めたり、関連する諸費用の負担を要求することはおかしな話ではなく、地域社会の支持と信頼を得るためにも必要な費用となることがある。
施行を担う民間主体の許容範囲内で、地方公共団体が様々な地域における費用分担や貢献を求めることはおかしな話ではない。但し、過度な費用負担としないこと、あくまでも許容範囲に留めることと共に、民間施行者の事業意欲を削ぐことにならない配慮が必要である。安易な形で民による負担を強調することは、愚の骨頂になりかねない。