ゲーミング・カジノを実施するか否かは優れて一国の為政者による政治的、政策的意思と判断による所が多い。勿論、このためには新たな立法措置が必要になると共に、これを実現するためには、この考えを支える民意なり、社会的な合意形成が必須の要件になる。住民や国民の反対が強ければ、そもそも制度を創ることも、実際の施設を整備することも実現しにくい。現代社会は為政者が公権力をもって、政策を推進し、これを無理やり実現する時代ではない。社会的に様々な影響をもたらしうる政策事項は、やはり何らかの社会的合意形成があり、国民や住民の同意があり、初めて実現できる。この意味では、社会的に合意形成を得るということは、現代社会においては、ゲーミング・カジノ法制の実現にとり必須のプロセスになる。この合意形成のあり方にも様々な考え方や選択肢がある。議会制民主主義の国では、どこまで、どのように社会的合意形成を図るのかは常に大きな議論の対象となる。
関連しうる合意形成には二つある。即ち;
① 制度創出に係わる国民の合意形成:
憲法で賭博行為が否定されている国や州等では、国民・州民による直接投票により、憲法を改正する動議の可否を決める必要がある(例えば多くの米国の諸州、スイス等はかかる事例でもあった)。一方、憲法上の問題ではない国では、議会による法律案の議決のみで制度創出を決めることができる国がある(例えば英国、シンガポール等である)。前者の場合、直接投票は実施の可否を決めるのみで、詳細は別途実施のための法律を創らざるを得ない場合(例えばニュー・ジャージー州、ミシガン州)も多い。この場合、法律の骨格案を予め策定し、国民や州民が理解しやすい形で提示し、後刻これを詳細化し、実施のための法律案を議会に提示するということが行われている。かかる場合、法案の詳細スキームが、住民や国民の意思と離れる可能性もあり、合意形成もオープンな議論の場を設けたり、パブリック・オピニオンに付したり、報道等をも動員しつつ、政策的意思を段階的に醸成したりしていく手法がとられることが多い。解りやすく説明しない限り、国民の理解を得にくいからでもある。国民や住民の反対を押しきった行動をとれば、票の減少もありうるわけで政治家の意思がぶれる可能性も無いわけではない。尚、米国では住民提案による法案提出が認められている州が多く、政治家、行政府、住民・企業等の発意により、制度を創出できる仕組みになっている。この結果、特定の利害関係者の主張が採用され、民意を得て賭博法制が実現することもある。
② 具体の立地選定に係わる地域的な合意形成:
制度的枠組みは国や州が定めるが、具体的に選定された地点や政治的に選定された地域に、かかる賭博施設を設置するか否かは設置される基礎的自治体に住む地域住民による投票、あるいは地方議会による議決でその可否を決める場合が多い(米国の州などは基本的には住民投票にかけるパターンをとる)。類似的だが、フランスでは一定の要件は法律上定められているが、設置するか否かの基本は基礎的自治体(コミューン)の判断に委ねており、まず設置される基礎的自治体が公募により施行者を選定し、一定の地域要件などを取り決めた上で、この合意をもって国に対し、許諾申請をする。国がこれを許可し、地方に差し戻し、議会の最終議決同意を得他のちに、事業者との契約合意が有効になり、かつ国から事業者にコンセッションが交付され、初めて施行できるという複雑な仕組みとなる(最初に地域の社会的合意形成ありきという前提になる)。あるいは英国では施行を認める判断と社会的合意形成取得要件を別のものとして、施行の許諾を取得できても、別途当該地域における許可が必要となり、この際、住民が反対の意見を述べたり、議論したりすることにより、合意形成を図れるようにするなどの仕組みをとっている。
地域社会に反対が生じていれば、カジノ施設の実現などは及びもつかないし、もし、反対運動が後刻激化すれば、運営自体も怪しくなってしまうリスクがある。住民との社会的合意形成は何らかの形で必須の要件ともなるが、住民に対し、目に見える効果やメリットを提示して、支持を取り付けるという手法が現実に取られている。これも一つの合意形成の効果的な手法でもあろう。尚、シンガポールでは、政府自らがセミナーやシンポジウムを主催、Webで賛成・反対の議論をさせるなど、報道を効果的に使用しながら、オープンな議論を展開し、ガス抜きをしながら段階的に政治的コンセンサスを作り上げ、一挙に国民の支持を取り付けることに成功した。これも社会的合意形成の典型的な成功例であるともいえる。