ゲーミング・カジノ法制とは、ゲーミング・カジノを律する法律の体系である。わが国には類似的なものが無いが、諸外国では、一定の類型化できうる制度的な考えが過去40年以上に亘り実践されてきている。かかる制度と規制の考え方は、様々な国々で各々の国の事情をも加味しつつ、制度化され、実践され、定着し、今日に至っている。この考え方は賭博行為から悪、組織悪、不正、いかさまを排除することにより、消費者、国民に対し、健全かつ安全なエンターテイメントとしてのゲーミング・カジノを提供することを狙いとした制度と規制の枠組みになる。近年、このような制度が存在しない国々(あるいは国によっては州等の地域)が新たな立法措置により、かかるゲーミング・カジノ法制を構築する事例が散見されている。新しくかかるゲーミング・カジノ法制を創出する場合、制度設計上考慮すべき要点はどこにあるのだろうか。
ゲーミング・カジノの主流となる施行の考えは、国(管轄権の在り方次第では地方政府)が民間主体にライセンス(免許)を付与し、ライセンスを得た民間主体が施行・運営を担う形式を取る(より解りやすい言葉では、免許・認可に基づく「民設民営」方式ということになる)。この免許とは、特定の主体に付与される特権で、規制当局の判断により任意の剥奪が認められ、公的関与の強い制度となる。この考えは、例えば我が国に存在する単純な「認可」ないしは「認可事業」とは、(一見類似的だが)制度的に状況や背景がかなり異なる。かつまた、わが国に現存する公営賭博の法理とも異なる。その理由は、ゲーミング・カジノでは賭博行為がもたらすリスクは現存する公営賭博のリスクとは根本的に異なることと共に、民間主体が賭博行為の施行者になるという事情から、様々な関係しうる主体の参入自体を規制し、かつ彼らの行動を規制し、監視し、違法行為を厳格に摘発することを前提にするからである(我が国にはそもそも民間主体に賭博行為の施行を認めるという制度的考え方は存在せず、かつ個別法の中身を比較しても、この様に厳格な類似的制度はない)。かかる賭博規制の制度概念の基本は1960年代後半以降米国において発展し、精緻化されたものである。この有効性が認識され、その後この考え方が欧州やアジア大洋州等様々な国により模倣され、各々の地域事情をも勘案して発展し、現在に至っている。わが国でも類似的な制度を考慮する場合、かかる諸外国の制度はそのままでは適用できないが、考え方やアプローチ、あるいは取るべき具体的な施策等に関しては、共通的に考慮すべき事項、あるいは、参考にすべき側面等も多い。
一般的にゲーミング・カジノ法制を考える場合、制度の骨格となる下記諸点に係る基本的な考え方と選択肢をまず詰めていくことが必要になる。その後、個別の国の事情や制度的制約要因を考慮しながら、あるべき方向性と選択肢を定義することになる。
① まず法目的を明確にし、如何なる目的で、何を企図してゲーミング・カジノを実施するのかを定義することが全ての前提になる。
② 一般的に、賭博施行を申請に基づき制限無く認可する国は殆ど無く、市場全体の許容度を管理しながら施行することが通例となる。この場合には、施行数、施行地点を限定して実現することになり、施行数・地域・施行者を選定する判断基準、選定手法を明確に定義する必要がある。
③ 施行に係る運営主体となるのは誰か、この運営主体がどのように選定され、また如何にその適格性を審査し、認証するのか、などの基本的考えと判断基準を明確にする必要がある。
④ 運営行為の再委託は可能か、あるいは施行が行われる地域・設置場所の権利を取得する主体と運営を担う主体を峻別するのか否か、この場合、後者は前者により別途選定されるのか等とともに、誰が、如何なる条件で、どのような許諾を付与するのか等の選択肢が付随的に発生する。
⑤ 国、地方公共団体、関連しうる民間主体が関与することになるが、これら主体間の関係性、責任関係、リスク分担の在り方を上記①~④を考慮して、適切に定義づける必要がある。また、この中で民間主体の役割と責任を明確にし、定義することになる。
⑥ 主務官庁、規制主体、法の執行を担う主体等にかかわる所掌、役割、責任、関係性を定義する。規則を制定する権限、免許や認可に関する権限、監視に係る権限、運営に係る規制と監視、検査の体制など誰が何をするかを明確にし、定義する。
⑦ 許諾されるゲーミング賭博の内容、採用ルール等の認可・認証基準、関連しうる機材、機械、システムの認証・判断・技術標準及び手順などを明らかにし、何が認められ、如何なる許諾や認可の対象となるかを明確にし、定義する。
単純でないのは、賭博行為自体の規制に関する規定(何をどう認め、どう規制するか)と国、地方政府、民間主体等関与しうる主体間の関係性に関する規定(誰が、何処で何をし、関係者は如何なる関係性になるか)という二つの異なる側面を規定せざるを得ず、この二つの側面が複層的に絡んでくるという事情があるためである。これには、多様な組み合わせや考え方あるいは異なった選択肢がある。わが国においても、新たな法制度としてのカジノ・ゲーミング法制度を考える場合、上記の基本的な項目に関する諸外国の実践の在り方を分析したり、、その基本的な考え方や共通的なアプローチを検討したりすることは極めて有益になる。
ではここに如何なる選択肢があるのか。何をどう考えるべきなのか。