ネバダ州における規制機関は、行政委員会である「ゲーミング委員会」(Gaming Commission)であり、規則制定やライセンス付与等の判断事項がこの規制機関の主業務となる。一方、実際の法の執行(調査、監査、監視、検査、認証、不法行為・違反行為の摘発と逮捕特権など。英語でEnforcementと称する)は、法の執行機関となる「ゲーミング・コントロール・ボード」(Gaming Control Board)がこれを担う。このボード自体の運営も行政委員会方式がとられ、知事が任命する常勤の3名の委員により構成され、任期は4年(再任可能)となる。規制と法の執行を基本的には峻別する二層構造の体制をとっていること、強力な法の執行を担う機関が存在することがネバダ州の規制と監視の枠組みの特徴でもある。
このゲーミング・コントロール・ボードは独自の組織を保持し、これは6つの局から構成され、ゲーミング委員会の事務機能を担うと共に、全ての実務を司り、2011年現在、437名の職員を擁し、年間予算4,251万$となる極めて大きな組織となっている。実質的には公安・警察機能を保持し、FBIや州警察とも連携・協力しながら業務を担っている。
主要な局の機能は下記となる。
(a) 調査局(Investigations Division):98名
ネバダ州においてゲーミングに関与したいと申請する全ての個人、企業の調査を担い、その適格性を審査する。申請者の資産、財政的、資金的な現状、過去の記録・背景等につき完璧な背面調査を含む個人調査、企業調査を実施し、その審査の結果をゲーミング委員会に推奨・報告する。
(b) 技術局(Technology Division):52名
顧客にとっての公正さを担保するために、ネバダ州で用いられる全てのゲーム機器、器具関連機械等をテストし、検証・認証し、これをモニタリングする任を担う。技術ラボを保有し、この分野では最古の試験施設となる。
(c) 監査局(Audit Division):96名
3年毎に売上500万㌦以上のライセンス保持者の監査を個別に実施し、全ての収入が申告され、税が支払われていることを確認する。個別企業の内部会計管理基準を評価し、財務状況をモニターし、公共政策に影響がありうる事項をゲーミング委員会に報告する。
(d) 税・ライセンス局(Tax and License Division):29名
全てのカジノ関連州税、手数料等を徴収する。また税収予測や、小規模ライセンス保持者のコンプライアンスのレビューを実施し、委員会の許諾・判断を得て、全てのライセンスの発行を行う。
(e) 法執行局(Enforcement Division):123名
最大の部局になる。24時間、週7日、365日、州のゲーミング法・規則等の違反・逸脱、犯罪行為等を監視・調査し、摘発する責を担う。犯罪捜査権、逮捕特権を保持しているが、実態は警察・検察当局からの出向者であることが多い。また、組織犯罪の情報収集、ブラックリストの作成と維持を行うと共に、顧客がハウスに提起する様々な顧客係争を処理する。かかる厳格な法の執行によりゲームが公正に、競争的にかつ腐敗無しに実施されていることを担保することになる。
(f) 総務局(Administrative Division):39名
人事、予算、記録保持などゲーミング・コントロール・ボードの日常的業務並びにゲーミング委員会の事務局機能を担う。またボードの議長を支援し、予算、立法関連事項につき議会との折衝事務等を担う。
この組織の特色は、徴税行為や公安・警察機能、違法行為摘発・逮捕特権など、ゲーミングに関するすべての行政的な執行に必要な機能を集中して保持していることにある。かかる事情により、行政機構の中で通常の行政事務として業務を割り振る考えをとっていない。問題が極めて特殊であること、情報を集中させ、専門的に管理しなければ、迅速な法の執行ができにくいこと等の事情があるためである。このため、ゲーミング・コントロール・ボードは、強力な調査権限と査察権限を保持しており、犯罪の要素がこの産業に一切入らないことを担保しているとともに、常に監視、モニタリングを実施し、強力な法の執行を担っている。尚、かかる組織は、類例のないものでもあり、あくまでもネバダ州固有の事情・背景に根差すものであることに留意する必要がある。ゲーミング・カジノの設置を数を制限することなしに認めているという事情からかかる組織になっているわけで、必ずしも全てが汎用的な考えではない。その他の州では既存の行政組織をうまく活用し、いかに効率的な規制と法の執行を実現するかにより大きな焦点があてられている。