デンマークでは賭博行為は、2010年迄は、「プール&ロッテリー法」によりロッテリー、スポーツ・ベッテイング、様々なパリ・ミュチュエル賭博が施行され、「カジノ法」によりカジノがまた「スロット・マシーン法」によりカジノ外のスロット・マシーンが施行されるという、賭博種毎のバラバラの制度でもあった。ロッテリー、スポーツ・ベッテイング、パリ・ミュチュエル賭博に関しては、2001年以降、財務省傘下の「国家ゲーミング管理機構(Danish Gaming Authority)」が単一かつ包括的な規制者としてこれら賭博種を規制する体制がとられていた。実際の施行は、スポーツ・ベッテイングやパリ・ミュチュエル賭博に関しては国営企業であるDet Danske Spil社に、ロッテリーに関してはやはり国営企業であるDet Danske KlasseLotteri社に独占運営権が付与され、長年に亘りこれら二社が市場を独占してきた。一方、カジノの施行に関しては、上記とは別の枠組みになり、国家ゲーミング管理機構ではなく、司法省が直接規制・監視・監督を担う体制がとられ、かつ申請により審査・許諾を得た民間事業者が運営を担うという仕組みをとった。賭博行為のリスクと性格に従い、規制と監視の在り方を変えたことになる。
Det Danske Spil社は、インターネットを用いた販売手法を採用しており、機構とリンクが張られ、機構の監督と監視の下で運営がなされている。機構は、カジノ外のスロット・マシーンに関しては、その運営者をライセンスにより認可し、技術・会計業務を検査でき、かつ機構の電子監視システムにすべての機械をリンクさせる義務を課し、監視している。一方、カジノは7 施設あり、全て民間事業者が司法省からコンセッションを受けて運営するが、カジノが設置される自治体(コミューン)は、その職員の中から、任期2年で、独立した会計監査官を指名し、営業時間中この監査官を常駐させる義務がある。費用はカジノ運営者が当該自治体に支払うとともに、これら会計監査官は、運営の監視を担い、警察の指示下に入り、違法行為などの場合には警察に通告、摘発を支援する。カジノの運営・活動の管理は警察当局が担うことが法律で明記され、警察官は捜査令状なしに、施設内に立ち入り可能である。また、事業者に対しては、ビデオ監視設置義務、データの一定期間保管義務を課している。
上記体制が大きく変容することになったのは、2007年3月に欧州委員会が、フィンランド、ハンガリー、デンマークの各政府に対し、スポーツ・ベッテイング市場を独占主体に委ねていることはEU法違反なる旨の警告を発したことによる。これに伴い、2009年5月にデンマーク政府はこの独占を廃止する方向を決定し、これを公表した。その後、2010年に「新賭博法」が制定され、賭博に関する規制と供給の体制が大幅に変更されることになり、Det Danske Spil社による一部独占体制の廃止、賭博規制の統合化、オンラインによるスポーツ・ベッテイングの市場開放がなされることになった。ところが、オンライン事業者に対する課税率(総粗収益の20%)と陸上設置型カジノ施設に対する課税率(41%、最高税率は75%)が異なったことより、EU条約107条第違反(差別的取扱いの禁止)として国内事業者が欧州委員会に提訴し、9ヶ月間の審査を得て欧州委員会はこれを適法とし、2012年1月になりようやく法律が発効することになった。
新しい賭博法制の枠組みは下記となる。
① 規制を担う主体は、国税庁傘下に置かれる国の機関として新たに設置される「デンマーク賭博機構」(Danish Gambling Authority,略称SKAT) となり、同国内における全ての賭博の規制・監視を担う。一方国税庁はライセンスの登録、検査、税の徴収等に関与する所掌を担う。
② 上記デンマーク賭博機構の所掌は下記となる
✔ デンマーク賭博市場の全般的な監督。
✔ ゲーミング機械の管理と監視・検査(オンラインによる中央監視システムの運営と維持管理を含む)。
✔ 国営会社となるDet Danske Spil社及びDet Danske KlasseLotteri社の監視・検査。
✔ 一般大衆向けポーカー・トーナメントの許諾、規制と監視・検査。
✔ 陸上設置型カジノの許諾・規制及び監視。
✔ オンライン・ベッテイング、オンライン・カジノの規制と管理・監視。またこれらの施行を担う民間事業者に対するライセンスの付与。
✔ 非営利ロッテリーのライセンス付与と管理。
✔ ライセンス付与、料金徴収、監視等のためのITシステムの開発。
上記は独占会社に対する独占体制が一部崩れたと共に、オンラインによる一部賭博行為を認めることによる実質的な市場開放がなされたことを意味する。オンライン事業者全てがライセンスの対象となり、サービス・プロバイダー(ISP)は違法ネット・カジノをブロックし、金融機関は違法ネット・カジノ関連取引を拒否する義務がある。但し、サーバーを国内に必置する義務はなく、技術要件を遵守し、サーバー協定書(Server Memorandum of Understanding)を規制当局と締結することにより,国外からのネット・サービスも可能になる制度となっている。2012年1月時点で登録されたインターネット賭博事業者は既に39社に上る。