学会誌ニューズレターNo.26を刊行いたしました。会員の皆様には郵送いたしましたので、ご高覧のほどよろしくお願い申し上げます。また、会員以外の方もニューズレターからご覧いただけます。
『ギャンブリング*ゲーミング学会ニューズレターNo.26』の刊行
最新トピックス
377. カジノ法制:政策検討の経緯 ⑤ 超党派議員連盟~2012年~
超党派議員連盟は、2010年末以降2011年夏にかけて、法案の論点と政策的選択肢を纏めるために、様々な議論を重ね、関連しうる様々な省庁からのヒアリングを実行すると共に、会長私案を提示し、その実効性を検証する手順をとった。この結果、2011年7月には会長私案をもとに、衆議院法制局と法案大綱を作成、公表した。但し、かなり複雑かつ法律事項の多い内容になることが明らかになり、一部内容に関しては政府と詳細な調整を図りながら詰めざるを得ない項目も存在し、議員のみで対応することは難しいことが明確となった。この意味では、専門的な知見や省庁との調整が全ての前提となり、議員立法で全てを策定すること自体に無理があったといえる。そこで、議連幹事長であった小沢鋭仁議員(民・衆)の発案により、2011年8月に方針を転換し、IRの法制化を二段階で実現することを取り決め、議連幹事会で議論の上、同年8月末の議員連盟総会で方針並びに具体の法案文につき了承を得た。
この概要は下記になる。
①第一段階:IR推進法(「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法(案)」)
議員立法となる。基本理念、基本方針を規定し、実施の枠組みを詳細に検討する組織を設け、一定期間内に実施法を策定することを政府に義務づける内容になる。内閣に内閣総理大臣を本部長とし、閣僚から構成する特定複合観光施設区域推進整備本部を設置する。また、内閣府に事務局を設置すると共に、重要事項の審議のために、国会議員10名、学識経験者10名より構成する特定複合観光施設区域整備推進会議を設け、内閣総理大臣を補佐する仕組みを設ける。法は法施行後3ヶ月以内にこれら組織を設置すると共に、法施行後24ヶ月以内に、実施の枠組み詳細を取り決めるIR実施法案を政府が国会に上程し、必要な措置を図ることを義務づける規定を設けている。
②第二段階:IR実施法(「特定複合観光施設区域整備法(案)」)
閣法となる。上記推進法の検討の枠組みで法案化されるものがIR実施法となり、これにより初めて刑法上の違法性を阻却し、カジノを含む複合観光施設(IR)を実現できる制度的な枠組みが固まる。かなり詳細な内容になるが、既に超党派議員連盟が検討してきた案を青写真として、その詳細化を政府に委ねることになり、ゼロからの検討ではない。かつ、官僚組織に丸投げすることなく、特定複合観光施設区域整備推進会議を通じ、超党派議連の国会議員がIR実施法に策定に直接関与するイニシアチブを取ることが全ての前提とされた。
2011年10月の超党派議連の総会で、再度方針と法案の内容を再確認する手続きがとられ、この原案をもとに、超党派を構成する各党が各党に持ち帰り、党内手続きを得て、各党内部の合意形成を図ることが合意された。例え議員立法として法案を議員主導で上程するにせよ、実際に法案を提出し、審議の棚に乗せるためには、与野党国対レベルでの調整が前提となり、主要与野党の党内合意が手続き上必要になるからでもある。
この合意形成の手続きは与党である民主党の場合は前原政策調査会長(当時)の指示により、政策調査会の内閣部会・国土交通部会の合同部会にその検討が付託された。合同部会は2011年11月から審議・検討・ヒアリング等を精力的に実施し、2012年1月末の合同部会で結論を得て、政策調査会幹部会に挙げられたが、この直前に、(付託を受けていない)政策調査会内部の法務部会から、政調会長に反対の書面が提示され、結局話はゼロに戻り、再度政策調査会の内閣部会・国土交通部会・法務部会の三合同部会により、全く同じ議論をやり直す羽目に陥った。これが2012年3月末から会期末直前まで10回継続され実行された。全く同じ議論の繰り返しでもあったが、この合同部会は、極めて少数派による党内反対論を抑えきれず、かつこの期間内に、国土交通部会、法務部会の会長が数度にわたり交替し、当初の部会の意思がころころ変わるという事態すら生じてしまった。実質的には2012年初頭より、民主党内部の意思決定メカニズムはがたがたになってきており、その後の党分裂の萌芽は当時から明確でもあったのだろう。結果、この合同部会は意見を纏めきれず、混迷し、会期末となる7月末までに結論を得られなかった。その後の臨時国会においても、なんらの行動もなされず、意見集約に至らないまま、同年11月には衆議院解散となってしまった。「反対のための反対」をする一部議員を押さえきれず、何も決められなかったというのが民主党の実態でもあった。
一方、自民党は、民主党の動きをにらみつつ党内合意形成を進めることを2011年12月に決定、2012年2月以降、政務調査会の内閣部門・国土交通部門の合同会議が、都合9回開催され、同年5月24日政務調査会では了解が得られた。この時点で茂木政調会長(当時)預かりとなり、以後手続き的には政策会議、総務会での審議が残るだけとなった。但し、民主党が混迷し、衆議院解散となったため、この時点で自民党の動きも全てがストップしてしまったことが現実となる。
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376. カジノ法制:政策検討の経緯 ④ 超党派議員連盟~2010~2011年~
様々な経緯を経て、カジノの立法化を目指す超党派議員連盟となる「国際観光産業推進議員連盟」が成立したのは、2010年4月となった。この設立時点で、共産党・社民党を除く、民主党・自民党・公明党・国民新党・みんなの党等の衆参両議院議員総数74名で超党派議連が構成された。カジノに関する立法化の実現が本来の議員連盟設立の目的でもあったのだが、現実にはより広義の政策目的が議員連盟の名称となり、広義の意味での観光振興や地域振興を企図する枠組みを志向しており、参加する議員の思いも、必ずしも一枚岩ではなかった。但し、与野党の政治家が一緒になり一つの枠組みとして行動することは、当時の政権交替後では画期的な事象でもあった(民主党は2010年春以降、個別議員が野党と政策を共有し、議連を組成することを認め始めたが、この議連はその初めてのケースとなった)。与党民主党が主体になり、推進し、これに野党各党が賛同し、参加する場合、政治的な推進母体としては強固な枠組みとなるはずで、実現への可能性は大きく前進することになると想定された。
当初、民主党の幹部議員は、「戦略的観光ハブ推進基本法案」として、飛行場・港湾・関連インフラ・国際会議場等の集客施設等を戦略的ハブとして推進・実現する法案を内閣法で構成し、これにぶらさがる形で、「特定複合観光施設区域整備法案」を議員立法で策定し、後者が実質的な「カジノ法案」となることを考慮していた。カジノ・エンターテイメントを国の戦略的な観光ハブ実現の一環として整理し、まず基本法で考え方を位置づけ、これに基づき、特別措置法としてカジノを特定複合観光施設区域の鍵となる要素として認めるという考え方になる。では、この内、カジノを実現するための法案の基本的な考え方は如何なるものか。この基本的な構想は、2009年総選挙前の時点で、従来の自民党案を踏襲しつつ、これに民主党らしい考え方を追加して取りまとめられた。先行する自民党案をベースとしたのは、①他に具体の案を民主党として持っていたわけではないこと、②同意できる側面は積極的に同意することにより、超党派の枠組みで法案を実現しやすくできること、③検討の時間を縮減できること等という理由もあったからである。この考えを超党派議員連盟の骨格として2010年春以降、論点を整理してきたのだが、その内容は下記諸点に纏めることができる。
①カジノを含む、ホテル、会議施設、ショッピング・モール等が集積した集客施設群を特定複合観光施設と呼称し、特別に国により指定された特定複合観光施設区域の中において、一定の条件が満たされる場合、この制限された施設区域の内部においてのみカジノの施行が認められる。これを下記の如く、限定的に、かつ段階的な手法により、慎重に、確実に実現する。
②この区域設定、カジノの施行は、全国津々浦々に何処にでもできるものではなく、当面、二ヶ所に限定し、この施行の経緯を見た上で、最大全国に十ヶ所とすることを前提とする。
③上記を実現するため、区域指定を欲する地方公共団体(ないしはその一部事務組合)が国に提案申請し、国が国の政策に最も適合的な区域を公平、当面な判断基準、手続きをもって選定し、当該区域を特定複合観光施設区域に「指定」する(尚、施設群の構成に関しては、地域の特性を考慮し、柔軟な考えを取ることを前提とする)。
④上記指定のみではカジノは実現できず、指定を受けた地方公共団体が、公募により、カジノを含む特定複合観光施設を企画し、投資し、実現し、運営する民間主体を選定し、自治体との開発契約締結により、当該民間事業者に特定複合観光施設を実現させる。
⑤当該民間事業者は別途、国の機関に対し、申請し、その適格性に関する国の機関の審査を経て、同機関より免許を取得できた場合、初めてカジノの施行を担うことができる(自治体との契約は認証の対象とする。また、企業としての事業者、その主要株主、経営者、従業員等も全て免許の対象とし、使用する機材、器具、システム等も全て認可・認証の対象になる)。
⑥施行者によるカジノの運営は、厳格な規制と監視の対象になるものとし、詳細規則を制定し、規制と監視を担保するために、国の規制機関となるカジノ管理委員会を新たに設置する。
⑦国及び、地方公共団体は、施行に伴う売り上げ(粗ゲーミング収益)の一部を納付金として徴収する。国の徴収のメカニズム、使途は国民に等しくその恩恵がいくように、年金財源の一部とし、年金特別会計への補填財源とし、地方公共団体の取り分、使途は一定の制約要件のもとに地方公共団体の判断に委ねることを前提とする。
複雑な構成になるのは、カジノの施行は、自由にできるものではなく、施設総数を限定すると共に、厳格な公的管理の下で初めて公平性、安全性を期す仕組みが実現できるという考え方をとったことによる。この場合、地域や地点、施行者等を選定せざるを得ず、公平かつ透明性の高い考えや手順を前提にせざるを得なかったからである。かかる考えを担保する制度はどうしても複雑化する。もっとも、超党派議連結成時点で野党幹部に提示された法案の骨格は、一応の整合性は取られているとはいえ、様々な論点につき、明確な与野党合意ができているわけではなかった。議論を進めるため、2010年7月には会長私案として全体の枠組みを詳細に提示する法案が議連に提示され、これをもとに政治的な合意形成のための議論や関係省庁との議論が始まった。但し、この時点では、政治的選択肢の対象になる項目も多く、内容的にも未定となる考え方があり、以後の議論に委ねられた。如何にこれら選択肢の幅を縮小し、国民にとり理解しやすい内容にすると共に、国民の支持を得られるかが実現のためのポイントとなった。
尚、この超党派議連は、カジノを含む複合観光施設をIR(Integrated Resort)と呼称し、かつ自らの議連も「IR議連」と主張し始めた。
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375. カジノ法制:政策検討の経緯 ③ 超党派議員連盟~経緯~
新たな賭博行為を認めるか否かは、基本的には一国における政治的・社会的な選択肢でもあり、民意と民意により選ばれた議員の総意があれば確実に実現できる。では、一定数の国会議員の賛同があれば、単純にこれが実現できるのかとなると、事はそう簡単ではない。賭博行為をどう判断するかに関しては、意見が分かれる議題でもあり、政党間の合意は容易ではないし、一つの政権党の中でも議員個人の意見は分かれる。特定政党が政権政策として取り上げるためには、政党内部での合意形成も単純にはいかないという側面がある。賭博行為は悪というイメージが国民にある場合、これを推進する立場を取ることは票が逃げるということを議員は危惧してしまう。個人的意見は別として、国会議員としても小選挙区制度のもとでは、住民の声が即、票に反映するため、中々表立って賛同しにくいという事情もあった。かつまた、その経済的効果のみを主張するだけでは、到底合意形成には至らない。政治レベルでの合意形成とは、この様に単純にはいかないのが現実である。
かかる事情から、新たな賭博法制の創出は、一つの政党が単独で法案を出し、採決を強要するというアプローチはそもそもありえず、政党間、議員間で様々な議論があることより、与野党を問わず、見解を一にする国会議員が、超党派の枠組みで、連携し、これを推進することが一つの効果的、かつ合理的な選択肢になると見られてきた。事実自民党政権の頃でも、与党自民党と野党民主党は、カジノ法制化の可能性に関しては、そもそも類似的な考えをしてきたという経緯もあり、平成17年から18年にかけては、お互いの推進議員連盟の幹部が意見交換をしつつ、考えを調整しながら、連携や協力の可能性とタイミングを図ってきたというのが事実となる。但し、超党派の正式な議連となるために、紆余曲折があったのは、①政局や与野党の微妙な関係次第では、話が進まないと共に、②基本的には議員の行動は自由とはいえ、実際の立法化の為に与野党議員が共同して行動するためには、個別政党内の内部的な合意形成や同意取得も必要であるという事情や、③超党派による議連の組成やその活動も組織としての政党による認知が必要になってくるという事情があったからである。
2008年の時点において、政権与党である自民党、野党である民主党の各々の新たな賭博法制実現を推進しようとしてきた国会議員は、法案の実現には超党派の枠組みでこれを推進するしかないという現実的なスタンスをとってきた。個別の政党の提案ではなく、あくまでも超党派で多数派を構成し、予め議論を詰めた上で、確実に多数派を実現し、法案が通ることを確認した上で、国会に法案を上程するという戦略になる。準備会合は何度も与野党間で開催されたが、選挙や、政権交替等があると、どうしても新たな政策で、既存の政権与党のアジェンダのテーブルにない優先度が低いと見なされる案件に関する議論は中々進まないのが現状になる。2009年夏の民主党による政権交代は、この動きを更に複雑にした。従前の自民党も、民主党も党内に政策を議論し、立案し、利害調整を図るための組織として政務調査会が存在し、この下に様々な政策にかかわる調査会や部会があり、これが党の正式な組織として、政策の検討や法案の検討等を官僚組織と平行的に動きながら担ってきた。一方、民主党は、政権交代後、政務調査会を廃止し、各省庁の大臣を含む三役と与党議員との政策委員会で政治主導の名のもとに政策を進めることを思考錯誤的に実施した。従来通りの体制であったならば、政務調査会の個別の部会等の枠組みの中で、政策をもんだり、利害調整を図ってきたりしたのだが、これらに係わるポストが無くなると共に、議員が議論できる「場」が無くなってしまった。明確に主管する省庁が決まっていたり、特定の省庁が予め政策に関与する分野であることが明示的な場合には上記の場合でも下から官僚組織が支えるために機能しうるが、複数省庁が関与したり、複雑な省庁間の利害調整が必要な政策の場合には、より上位の政治的なパワーとモチベーションが無い限り、何も動かなくなってしまう。これは政権与党内で、分野や対象によっては、新しい政策議論を自由に展開できなくなることを意味した。この結果、与党議員の不満が募ると共に、正当としての活力は大きく削がれることになった。政治的な意思決定の在り方が乱れると、超党派による議員連盟などで法案を進める考え方はまず認知されなくなってしまう。
一方、自民党も、選挙敗退後は議員数が減少したために、従来の細分化された政務調査会を改め、個別専門的な分野以外は、個別の調査会を置かず、集中的に政務調査会が政策を検討するという体制に変化した。
政権交替に際し、与野党いずれもが、政治的な意思決定の在り方に混乱をきたしたのは致し方ない側面があった。今までの在り方は全く通用しなくなり、新しい政治的な合意形成の在り方が模索されていたのであろう。残念ながら、これには時間を要したというのが現実となった。2010年春になり、民主党内部の体制も安定化し、新たに政策調査会(政調)という党の政策意思決定メカニズムが再構成され、同党議員による超党派での法案検討の枠組みも認知されるように党の方針が変更された。この結果、民主党内部での幹部同意を得て、2010年4月14日、自民党、民主党、公明党、国民新党、みんなの党、大地の党等の超党派による「国際観光産業推進議員連盟」が成立した(会長:古賀一成、民主党衆議院議員)。これが現在まで続いているカジノ法案を実現する超党派の政治的枠組みになる。
Ⅹ我が国における新たなゲーミング賭博法制(基本)
国際IRシンポジウム(於 韓国国会)
2013年6月12日(水)、韓国国会にて韓国観光振興公社主催「国際IRシンポジウム」が開催され、当学会の美原副会長が登壇されました。
最新トピックス
374. カジノ法制:政策検討の経緯 ② 民主党
前述した様に賭博行為の法制化はまず立法府での立法政策としての議論ありきになる。一方、賭博行為の制度化に関しては、同じ政党の内部でも議員間で意見が分かれやすい主題になる。議員個人の宗教感、倫理観や信念とも絡み、賭博行為を認めるか否かに関しては議員個人の信条の問題になってしまう。政党の内部でも、かつ政党間でも意見が割れやすい政策の合意形成を図ることは単純ではない。かつ、問題が問題であるだけに、例え法案が上程されるにしても、政党内部の状況次第では、公党として議決に対し拘束力をかけることは難しい側面もあり、議員個人の意思が反映される形での採決形態になる可能性もあると想定されている。
一方、この事情は逆に、公党の枠を超えて、与野党の議員が同じ政策や主張ができる可能性をも広げることになる。事実、自由民主党の議員が議員連盟を組成し、カジノの合法化議論を始めた時点で、当時野党第一党であった民主党も類似的な行動を起こしている。民主党は、既に平成11年8月の時点で、21世紀を見込める将来産業として、第3次産業であるエンターテイメント・サービス産業を育成する必要が急務として、「民主党・娯楽産業健全育成研究会」を議員連盟として設立した(設立当時の会長:石井一衆議院議員、事務局長:牧義雄衆議院議員)。この議員連盟は、国民大衆の中に広く根付いたパチンコ産業の法整備や税制などを整備する動きでもあり、このために新たな遊技業法の成立を期して、その実現を図る議員連盟でもあった。但し、遊技と共に、公営賭博やカジノ賭博等も広く娯楽産業として捉える考え方をもっており、民主党衆参両議員約90名が議連に名を連ねるに至った。この同じ議員連盟が、その後自民党内にできた「カジノと国際観光を考える議員連盟」とも連携し、超党派議員立法での我が国の遊技産業など娯楽産業の健全育成と共にカジノ合法化を目指すことを志向したわけである。当初の背景は異なるが、賭博や遊技産業の制度化を図るという意味では類似的でもあり、民主党は遊技も賭博も全く類似的なエンターテイメントと判断している点が異なるといえば異なるのであろう。自民~民主の連携が単純に進まなかったのは、当時民主党はカジノ法とパチンコ新法の二つを同時に実現することを標榜しており、自民党は中長期的にパチンコ新法には反対はしないが、これら二つを混同すれば確実にいずれも実現できなくなると実務的に考えていたためである。かかる背景から、当初、自民党は民主党に対し、娯楽産業健全育成研究会とは別の、新たなカジノ立法だけを企図する枠組みを切り出させて、別の議連を構成させ、これと連携することを模索してきたという経緯すらあった。
自由民主党が議員連盟による検討から党の機関である政務調査会におけるカジノ合法化に向けての正式検討に入ったのと類似的に、民主党も政権奪取の可能性が出てきた平成20年6月の通常国会会期末の時点で、次の内閣(政務調査会)内に「新時代娯楽産業健全育成PT」を設けている(座長:古賀一成衆議院議員、事務局長;牧義夫衆議院議員)。次の内閣のPTとは自民党の政務調査会に匹敵する党の正式機関でもあった。党の正式な認知を得て、立法化を目指す立場をとったのは、政権交代が実現した場合には、公党間協議へともっていける体制と検討を早めに実施するという考えに立脚したためである。かつ、民主党はカジノ立法化に関する内部的な検討に関しては、自民党と比較すると遥かに立ち遅れており、自民党にキャッチ・アップするという狙いもあった。平成20年6月には、自民党、民主党、公明党、国民新党等の議員有志団は、同年に想定されていた選挙後に、カジノ実現のための超党派議員連盟を構成する基本的な合意を非公式にしていたことも事実である。この時点で与野党を含めると既に230名以上の衆参議員がカジノの立法化に賛意を示していたことになる。
では、この時点で、自民党の主張と民主党の主張とでは議論の熟度や論点の整理、立法化に向けた検討の内容や論点整理はどうであったのか。残念ながら、この点になると、当時民主党内部では、必ずしも十分な議論が尽くされているわけではなかったのが現実である。カジノの必要性や立法の趣旨に関しては基本的な考えは共有され、合意されてはいても、ではどうこれを制度として、また国のメカニズムとして実現するかに関しては、特段の議論も無く、明確かつ明瞭なビジョンや立法政策を共有しているわけではなかったのが当時の民主党の実態でもあった。民主党のPTは、平成20年度以降も、段階的に議論を重ね、立法化の検討に関し、より先行していた自民党へのキャッチ・アップを図ったというのが現実である。この意味では民主党は、先行した自民党の基本的な考えを踏襲しつつ、民主党らしい追加提案により、自民党も納得しうる超党派議員連盟に繋がりうる案の検討を進めてきた。この状態が継続されつつ、平成21年に衆議院選挙が行われ、政権交代へと繋がっていったことになる。 平成21年度以降、政党間のパワーバランスは明らかに自民党から民主党へと移りつつあった。
Ⅹ我が国における新たなゲーミング賭博法制(基本)
373. カジノ法制:政策検討の経緯 ① 自由民主党
賭博行為の制度化はTotoを議員立法で実現した最近の事例でも理解できるように、政治主導による立法政策として実現してきたことが我が国の基本でもあった。現行の刑法で違法となる行為を、新たな法的措置で正当化し、制度を創設する場合には、立法政策としての政治的な意思がなければ、実現できるわけがないということでもあろう。事実、行政府たる省庁が刑法の例外規定を政策として主張することはおかしい。よって、イニシアチブを取れるのは行政府(官僚組織)ではなく、立法府以外にはない。新たな賭博法制として議論の対象となるカジノの場合も同様である。
さて、立法府において、カジノ(ゲーミング)を新たなエンターテイメントとして位置づけ、この制度化を図るという考えは昔から一部与野党の議員の間にはバラバラに存在した。これが議員の運動として組織化されたのは、平成14年12月に当時政権与党であった自由民主党の議員有志が「カジノと国際観光を考える議員連盟」(委員長:野田聖子衆議院議員)を設立したことがその嚆矢となるといってもよい。当時議員130名の賛同を得て、この議連は、都合3年、27回の会合をその後開催するに至っている。平成16年3月以降、議連は与党内部で議論を詰め、関連する省庁との意見交換やヒアリング等を踏まえ、平成16年6月に議員連盟としての「基本構想」を発表した。省庁との議論を経た上で、国会議員の意思としてカジノを制度化するという初めての構想の発表になり、当時内外の注目を集めたという事実がある。これが一つのモメンタムとなったのだが、その後動きが鈍くなったのは、わが国では、ほぼ2年毎に選挙があり、選挙がある度に、政治家の動きが不活性化するからである。必ずしも票には結びつかず、逆に説明の仕方を失敗すれば、国民の反発を招きかねない側面があるために、国会議員もどうしても慎重になる。かつ、国民生活にも必須の法案とは見なされないために、優先度は劣り、どうしても、後ろにおいていかれてしまう政策の一つになってしまう。与党自民党や国論を二分した平成17年の郵政民営化とこれに続く、衆議院解散、政局の混乱は更に、これに拍車をかけることになった。
新しい政策提案はやはり、政局が安定し、世の中の先を考える余裕ができないと動かない。上述した議連の動きは、政党の幹部への報告や働きかけを含むものであったため、自民党幹部がようやくこれを認知し、政権政党による一つの政策として党として正式に検討することを決めたのは平成17年末から平成18年初頭にかけての話になる。この結果、党の正式な機関として、平成18年2月に政務調査会の観光特別委員会(委員長:愛知和夫衆議院議員)の下に、カジノ・エンターテイメント検討小委員会(小委員会委員長:岩屋毅衆議院議員)が設けられた。政権与党としての立法化に向けての正式な検討機関を設けたということになる。この小委員会は1年半の間に都合17回の会合をもったが、平成18年通常国会中に、省庁からのヒアリングを含む集中的な検討を行い、平成18年6月に観光特別委員会・カジノ・エンターテイメント検討小委員会の合同取り纏めとして、「カジノ・エンターテイメント導入に関する基本方針」を策定・公表している。議連の基本構想とは異なり、政権与党の政務調査会による基本的な立法に向けての大きな枠組みを決める内容でもあった。もっとも、党の機関決定までに至る手順はなされず、観光特別委員会及びカジノ・エンターテイメント検討小委員会の合意事項に留まっている。主務官庁の選定や、国の機関の在り方、国と地方のあり方等の基本的な項目は詰めきれておらず、部会や総務会に上げ、党としての機関決定をするには未熟と判断されたためでもある。公党による正式な検討は、立法化に向けての大きな前進となるのだが、政権の不安定化、政局の混乱は、以後、詳細な詰めの段階になると、肝心の具体的な議論がなかなかうまく進まないという状況をもたらした。平成18年には小委員会の委員長であった岩屋毅議員が政府(内閣)に入ったため、平成18年12月に野田聖子衆議院議員が小委員会委員長となり平成19年になり、小委員会は再開されたが、実際の動き、進展は殆ど見られず、結局平成19年12月に岩屋毅衆議院議員が再度小委員長に就任している。
平成20年2月には与党政策責任者会議で検討小委員会の現状報告がなされると共に、野党との連携・協力も模索されるように事態が展開した。検討小委員会が公明党に対し、ブリーフィングを実施すると共に、同年2月には民主党の議員連盟である「娯楽産業健全育成研究会」が自民党検討小委員会幹部を招聘し、カジノ基本方針を議論した。これら活動の結果、与野党連携の機運が高まり、会期末となる平成20年6月には、与野党(自民党、民主党、公明党、国民新党、無所属)の有志が参集し、同年秋の臨時国会以降、超党派での研究会立ち上げを図ることで合意するという経緯になった。与野党の勢力が競い合う国会においては、超党派による議案の立案と推進は、議案実現のための王道でもあるからである。平成20年上半期までは、与野党連携の模索が加速化し、超党派議連への機運が高まったのだが、同時に、自民党政権の混乱と自民党自体の弱体化、政局の動き、解散・総選挙のうわさ等で身動きがとれない状態が継続した。時代の流れは、自民党自体の政治力を弱め、結果的に平成21年の解散、衆議院総選挙、そして政権交代へともつれこんでいったのが実態となる。この間、カジノ法制化の動きに進展は見られず、議論は低迷してしまった。
Ⅹ我が国における新たなゲーミング賭博法制(基本)
372. 公営賭博改革: ⑦ 2013年TOTO関連法改正
2013年4月26日、超党派スポーツ議連の国会議員が創った「Toto制度改正検討プロジェクト・チーム」が議員立法として上程した「スポーツ振興投票の実施に関する法律及び独立行政法人日本スポーツ振興センター法の一部を改正する法律」が殆ど実質的な審議が無いままに、参議院で可決され、成立した。この法案は現在Jリーグに限定されているサッカーくじ(Toto)の対象を欧州主要リーグやワールド・カップ等主務大臣が基準に適合すると特定し、指定するサッカー競技にも広げる内容となる。Jリーグのリーグ戦は12月上旬~2月には試合がないが、一方、欧州主要リーグは通年実施されているため、海外試合の導入により、このギャップをうまく埋めることに繋がる。もし、人気のあるサッカーくじを通年で販売できるとするならば、現状年約800億円の売り上げが1,100億円程度にまで伸びるという。
事の発端は2020年夏季五輪の東京への招致活動がもし成功した場合、メイン会場となる予定の現在の国立競技場(東京都新宿区)は大幅改修せざるを得ず、1,300億円と見積もられているこの費用をどう工面するかという話にあった。厳しい財政状況の折、この改修費を全て国費で賄うことは難しい。一方この施設は、「国立」競技場であり、国の独立行政法人である文部科学省所管の日本スポーツ振興センターが運営・管理する施設となるため、その改修等は国の一般会計からねん出せざるを得ないことが基本になる。例え、東京都が招致に深く絡むオリンピックゲームであっても、東京都が国の施設の改修費を負担しなければならない理由はない。日本スポーツ振興センターは当該改修費全額を国の一般財源でまかなうよう予算要求したが、財務省は、厳しい財政事情を盾に抵抗、もし招致に失敗するならそこまで立派なものを造る必要がないと反対し、センターと東京都にも応分の負担を要求してきた。結局13 年度予算案では基本設計費13 億円のみが盛り込まれ、総工事費の負担配分はこれから調整されることになる。改修は設計に2年、建設に4年といわれ、費用の押し付け合いが続けば、準備が遅れ招致に影響する可能性もある。
上記事情から、日本スポーツ振興センターにとっての新たな収益となるサッカーくじの種類を増やすことにより、増収を図り、この収益の一定部分を特例的に大臣が定める支出に投入することを制度化することにより、上記改修費1,300億円を賄うという目論見となる。制度としては、くじ増収分の財源として振興くじの売り上げの5%を越えない範囲で文部科学大臣が財務大臣と協議して決める金額を両大臣が協議して決める業務(特定業務)に必要な費用として充てることを認めている(一般財源化せずに、特定費目に直接この国費を投入する)。実態は、このくじ収入による国費投入、(国の保証による)センターによる銀行借り入れ、債券発行等の組み合わせで国立競技場の改修に必要な資金調達を図るという目論見であろう。場合によっては、この施設整備にPFI手法を採用し、上記国費を支払の一部財源として、行政による延払となるサービス購入型あるいはこれと利用料金を併用する混合型による支払を前提とし、民間事業者に整備に必要な資金調達を委ねることも想定されている。
海外レース(試合)を対象に賭博行為をすることは、わが国ではまだ試みられていないが、果たしてこれが実現できるのか今一つ定かではなく、ことはそう単純ではない。国会審議録を見ても、何とも物足りない質疑応答になり、果たして緻密な制度設計が行われているのかに関しては、懸念もわいてくる。これは①わが国Jリーグの場合には、八百長等の不正を防ぐために、かなり厳格な規律を制度上要求しているが、相手が海外リーグの場合、不正を監視し、防止する手段は一切無くなる。もし、八百長等があった場合には、くじ自体が成立しないと共に、主催者は損害を被ることになるが、救済は得られず、かつ、損害賠償も要求できなくなる。②センターによる海外競技の取り入れは、FIFA等海外主催者の同意を得てやろうという考えではなく、大臣による一方的判断で海外の競技を対象に賭博行為を提供しようとしている。この場合、現在欧州諸国でも議論になっている所謂スポーツ権としてこれら競技団体等が日本での売り上げに対し、応分の負担を要求してくる可能性も高い。但し、国会答弁によると、文部科学省やセンターはこれらリスクを現時点では全く考慮していない模様である。
新たな魅力ある賭博種や人気がでそうな商品を認めて、収益を増やし、当該収益を新たな財源として公目的に用いることは、合理的な考えでもあるのだが、ことが海外で主催される競技となると、複雑な問題が浮かび上がりかねない。果たして、充分な検討をした上での法改正といえるのか、これではとらぬ狸の皮算用ではないのかという懸念が残る。
Ⅹ我が国における新たなゲーミング賭博法制(基本)
371. 公営賭博改革: ⑥ 2012~13年の制度改革
市場環境の変化やこれに伴う経営環境の悪化に伴い、公営賭博の制度的あり方を再考すべきという主張は、特に地方公共団体レベルで、施行が赤字基調になっている団体が増えたり、開催権を返上し、施行を廃止したりする団体が増えると次第に声が強くなってくる。過去10年に亘り、危機が叫ばれると、一部制度改革を実行し、一定の期間が過ぎると再度危機が到来し、また一部制度改革をするということが繰り返されてきた。小手先の改革で現状を糊塗し、根本問題の解決を先送りにし、とにかく現状を維持しようとする試みのようにも見受けられる。2011年に生じた一部公営賭博・公営競技関連法改正の動きもこの流れの中に位置づけることができる。2012年、2013年の通常国会において、競馬、競輪、オートレース、宝くじ、Toto関連の公営賭博法制度の一部改正が法律として成立した。賭博種により、制度改定の内容の詳細が異なるが、概略下記等がその内容となっている。
① 交付金制度改革:
特定交付金還付制度(施設改修等の投資費用につき、施行者が納付した交付金の1/3を限度として交付金を還付する制度~競輪~)の廃止、振興法人に対する交付金率の引下げ(競輪、オートレース)、赤字施行者に対する交付金の実質的減免(決算において赤字が確定した場合、赤字相当額の交付金の還付~競輪・オートレース)、交付金猶予特例制度の廃止(交付金の納付を5年間猶予する制度であったが、実質的減免を導入したため不要になった)等になる。一部公営競技では、施行者から交付金として強制的に徴収する仕組みそのものが破たんしつつあることに対する制度的対応になる。但し、段階的、パッチ・ワーク的な対応に終始しているのが現実であろう。
② 事業規制の見直し:
施行者の自主的判断により、的中者に対する払い戻し率を設定できる範囲を拡大するもので75%から70%への下限率引き下げ~競輪・オートレース、あるいは下限70%、上限80%の範囲で任意に設定~競馬~等の考え方になる。顧客勝ち分を減らし、その分公的主体の取り分を増やすことができる裁量権を主催者に認める考えになる。また開催日数、開催日程等の規制緩和が実施され、年間開催回数の下限規制や開催の日取り調整に関する主務官庁の指示権限を廃止する等、施行者による事業運営の自由度を高める施策が講じられた。
③ 財政支援措置の延長:
地方競馬に関しては、2012年に期限切れとなるJRA,地方競馬全国協議会による地方競馬主催者に対する財政支援の5年間の延長が認められた。財政支援は苦悩にあえぐ地方競馬の一時的延命策に過ぎず、前向きな施策とはいえない。
④ くじ系賭博関連制度改革
宝くじに関しては費用や支払負担軽減の為の電磁的記録化の許諾(これにより宝くじのインターネット販売が可能になる)、当選金最高倍率の引き上げ、委託金融機関の拡大等専らくじの販売を強化する制度改革になり、Totoに関しては、欧州プレミアリーグ等を販売対象とすることによる通年販売と当選金額の引き上げが2013年制度改革により認められた。
上記の内、公的部門による法定控除率25%を30%にあげる可能性は、その可否も含めて個別の主催者となる地方公共団体の判断に委ねられているとはいえ、顧客の取り分を減らし、その分自治体の取り分を増やすという考えになる。これでは、何らの経営努力無しに、顧客勝ち金を減らし、経費に充当できることを意味し、禁断の木の実でもあろう。顧客を犠牲にし、自らの存続のための費用に用いても、①中長期的には顧客の離反を招くことと共に、②自らの努力や改革も無く、顧客の犠牲により苦境を凌げるということでは、安易に問題の解決を先送りにするだけに終始してしまう可能性が高い(かつ主催者間で払い戻し格差が生じる可能性もあり、これでは更にファンが逃げてしまう可能性がある)。実質的な支援措置の5年間の延長も同様で、確かに一定の現状維持効果はあるとはいえ、これでは改革のための努力を促すことはできない。
補助金の仕組みが温存され、改革の努力をしなくとも現状が維持できると地方公共団体が考えた場合、誰も好き好んで痛みのある改革には手をつけるわけがない。改革への努力が無いとしたならば、数年後にはまた同じ危機に陥るのは目に見えている。現状のままで売り上げが減少する傾向が続くとした場合、座して死を待ち続けているといっても過言ではあるまい。こうなると、一部公営競技に関しては、市場が明らかに供給余剰であるならば、全国レベルでの主催者の統廃合や再編、経営資源の更なる集約化による重複業務の排除や効率的な運営等も考慮すべき選択肢の一つになりうる。
Ⅹ我が国における新たなゲーミング賭博法制(基本)
370. 公営賭博改革: ⑤ 事業仕分けがもたらした課題
2010年5月末に実施された当時の民主党政権による「事業仕分け」に、公営賭博・競技関連の公益法人(特殊民間会社)がやり玉に挙がった。宝くじ関連財団(特に財団法人宝くじ協会、財団法人自治総合センター、財団法人全国市町村振興協会)と競輪振興法人となる財団法人JKAである。これら公営賭博・公営競技は、総賭け金の一定率を公的部門の取り分として控除し、残額を勝者に分配するが、控除額から一定率を交付金として振興法人や特殊法人が徴収し、その残額から開催費用を差し引いた残りが施行者たる地方公共団体の収益となる仕組みになる。問題とされたのは、この交付金を徴収する振興法人や、関連しうる公益団体の存在意義でもあった。これら交付金は、その必要性が疑問視される外郭団体や関連する公益団体に対する補助金の原資になっていると共に、所管官庁と関連地方公共団体からこれら公益団体への天下りが横行していること等が問題とされた。かつ、これら公益団体の役職者に対する高額給与や、過度に豪華な事務所等の無駄遣い、複雑な交付形態と共に、無駄な広告費や委託宣伝費等も改善すべきとして指摘された。一方、JKAは、同様な天下りと共に、主務官庁関連の公益法人への支出が多いこと、効率的・効果的な補助金交付になっていないのではないか、交付金還付事業の経理上の処理は適切といえるのか等が問題となった。
事業仕分けにより指摘された現在の公営賭博・地方公営競技の大きな制度的問題は、下記にある。
① 天下りと無駄な支出がビルト・インされた制度:
公営賭博の趣旨は、その収益をもって国や地方への財政に貢献することにあるのだが、所管する霞が関の主務官庁と関連する財団や公益法人、地方公共団体の場合も関係しうる公共法人等に関し、法律を根拠とした天下りと利権の構図ができてしまっている。税ではなく、法により守られている交付金の一部となるため、誰の監視も無く、実質的に利権が温存されてしまったのであろう。また公営賭博や地方公営競技の仕組み自体に、潤沢かつ、安定的なキャッシュフローがこれら財団や公益法人等に配分されるメカニズムが存在する場合、これら主体の財政規律は極端に甘くなる。議会の監視が届かない、官僚だけの裁量で処理できる世界を法により構築しているわけで、官僚による無駄遣いを増長させる仕組みであることは間違いない。潤沢な資金が目の前にある場合、これを自らの費用を控除した上で配分することが目的であっても、好きなだけ費用を使ってしまうという衝動が生じてしまうのは、避けられない。無駄遣いを避けるためには、情報の公開や第三者による合理的な監視等を明確な判断基準を定め、徹底する必要があると共に、かかる配分のためだけのメカニズムが本当に必要かその是非を再考する必要がある。
② 地方自主権、民を隠れ蓑とする再配分のメカニズム:
地方分権の問題として、あるいは官ではなく、民間の領域であるとして、国は関与すべきではないという理屈により、高額給与の高級官僚の天下りを認めるメカニズムを温存し、これを正当化する考えは適切であるとも判断されない。潤沢な資金配分のメカニズムは、その下に、更に再配分のための公益法人と更なる天下りのメカニズムを再生産してしまう。公目的の為の補助金の配分だけであるならば、チャネリングすることなく、直接受益者となる主体に配分することが合理的で、これを複層化する価値はない。複雑にすればするほど、メカニズムを維持するための費用がかかると共に、配分の使途や目的等が曖昧になり、透明性に欠ける状態が生まれることになる。
③ 財団、振興法人、公益法人等は純粋な民間主体ではなく、公が支配する組織:
地方公営競技を主催する地方公共団体はいずれも、赤字に苦しんでいる所も多いが、一方では、控除された金額の配分を受ける財団法人等には、現場を無視した無駄遣いの体質が温存されている。本来この配分の考え自体と、間に介在する配分のための財団法人、振興法人等、関連する主体の存在そのものを問題にすべきである。これら財団や公益法人等は法人形態としては民であるとはいえ、特殊な権利、特殊な公益を保持するとされ、大臣が役員を任命し、かつ役員の解任権を保持し、事業計画・収支予算は認可の対象、事業報告や収支決算等も報告の対象となる。かつ余裕資金等の運用手法も厳格に限定されている。自由な経営ができず、実質的な生殺与奪権を主務大臣(主務官庁)が保持している現状の在り方を単純に民間主体ということが適切か否かに関しては、大きな懸念が残る(形式ではなく、実態で判断すべきで、法の名の下に形式論で既存の利権を温存するために制度が設けられたとすれば本末転倒である)。
この事業仕訳はその後も2011年、2012年と試みられたが、改善努力はなされず、民主党政権の力が弱くなると共に、実行されない政策課題となり、単なる政治的パーフォーマンスに終始してしまった。問題は大きく取り上げられたが、結局現状は温存され、何かが変わったわけではない。この結果、公営賭博・公営競技に関する制度的な非効率は現在でも仕組みの中に内在している。現代社会では最早時代遅れで価値の無い仕組みが、改革もされずに温存されていることの異常さを事業仕訳は明らかにしたが、問題を指摘しただけに終わった。かつ、これを改革しようとする動きが関連省庁から出てくる気配は一切無い。
Ⅹ我が国における新たなゲーミング賭博法制(基本)