カジノ場で用いられているチップとは、カジノ場でのみ使用され、金銭と交換し、金銭の代替物として賭け事に用いられる一種の用具である。ゲームでチップをより多く取得すると、後刻再度このチップを金銭に交換することができる。ゲーム機械の場合には、直接金銭や紙幣を投入できるが、さいころやトランプ等を用いるテーブル・ゲームの場合には、金銭を賭ける手段として、紙幣ではなく、このチップを使用するため、ケージと呼ばれるキャッシャーにて現金とチップを交換したり、デイーラーと顧客との間で、金銭をチップに交換したりすることがゲームを遊ぶ前提となる。顧客の勝ちは当然チップとして取得するわけで、これを元手に再度遊ぶこともできれば、これをケージにて現金に交換することもできる。金銭ではない、代替物を賭け事に用いるのは、①顧客の金銭感覚を無くし、顧客の支出を促す効果があること(より賭けやすく、遊びやすくする)という効果があると共に、②異なった金額のチップは色や数字で区別し、全てのチップが同じ大きさとなるため、顧客にとっても取扱いが簡単で、デイーラーにとっても計算が容易くできること等のメリットがあるからである。
このチップは、カジノ場内においては、①現金との等価性、交換性が保証されていること、②このチップを顧客が持ち帰り、一定期間後に再度同じ施設に来場してもチップとしての有効性は変わらないという性格を保持している。当然のことならが、カジノ・ハウスに取り、チップは現金と全く同様の取り扱いを受けることになり、詳細な内部的取扱い手順が取り決められる。また制度・規制の側面からもチップの製造、販売、使用、破棄等の取扱いは、厳格な規制の対象となる。偽造されたチップがもし紛れ込んで使用されたとすれば、カジノ・ハウスにとっては致命的な損失になるとともに、このツールに不正やいかさまがなされるとしたならば、顧客の信頼を喪失し、そもそもカジノ自体の存続が危うくなってしまうことになりかねない。偽造されたチップは、カジノ・ハウスの利益の横取りと等しくなるからである。
さてこのチップは我が国の法制度の中では如何なる位置づけとなるのであろうか。遊技は遊技場が顧客に対し、玉やメダルを貸している。単純に貸しているだけで、これに伴い消費税が賦課されている。では、果たしてカジノのチップもパチンコの玉と類似的にとらえるべきであろうか。カジノにおける現金~チップ交換を、チップの貸付行為とみなし、消費税の対象にするというのもおかしな議論になってしまう。チップはあくまでも、現金との等価性、交換性をハウスが保証する現金と類似的なものでもあり、そもそも、チップを貸しているわけではない。では現金と同様に有価証券とみなすべきであろうか。有価証券であるならば現金と同じ扱いになり、消費税の対象にはならず、かつその偽造等は厳格に法律違反となるために様々な側面からは都合が良い。但し、チップは有価証券に必要な属性となる汎用性、流通性等は一切無いために、有価証券とみなすには無理がある。結局、このチップとは法律上は、特定場所、特定用途のみに利用される現金との交換性を保持する施行者が発行する「引換証」と考えることが適切ではないかと考えられている。当然のことながら、当該カジノ施設外では金銭と交換することはできない。またその発行と使用は施行者のみに認められ、規制当局の許可無しに、これを発行し、使用することはできないと共に、チップの技術仕様、製造、運搬、保管、使用、破毀手順は別途国の規制機関が規則にてこれを定めることになる。また、その偽造や不正な利用は厳罰となることが通例である。
尚、顧客との間におけるチップと現金、現金とチップの交換は、予め定められた交換所、ないしはゲームが実施される各テーブルにおいて施行者の職員たるゲームの主催者(デイーラー)との間においてのみ可能となる。また、カジノ施設外へのチップの持ち出し禁止は、規制を設けても、実質的にはチェックできず、規制する価値はあまりない。ややこしいのは、実務上の柔軟性を保持しながら、運用せざるを得ないことで、例えば、余ったチップを持ち帰る人もいれば、何年か後に同じカジノ・ハウスに来て、昔のチップを使おうとする顧客はありうるわけで、これらを拒否することはできない。カジノ・ハウスの毎日の売り上げは現金ポジションと共に、チップのインベントリーのポジションを把握することが必須の要素になるが、チップを自宅に持ち帰ったりする場合等は、当然数値が合わなくなるわけで、これは例外としてプラスチックのチップを売却(販売)したという前提をとらなければおかしくなる。一定期間後同じ顧客がこのチップを使用した場合、同様にチップを追加的に買い取る(損失)という行為になるのであろう。勿論カジノ・ハウス内部での顧客とのチップ交換はあくまでも交換であって販売としないのは、売買や役務の対象とすれば消費税の対象になりかねないからである。この点、税務上、会計上の整合性をどう図るかに関しては、工夫が必要な側面もある。
尚、もしチップの偽造等が起こりえたとすれば、カジノ・ハウスは致命的な損失を被り、カジノの存在そのものが危殆に瀕する。この偽造を防止する手段としてチップの中にRFIDチップを埋め込み、チップの個体認識をできるようにする試みが一部諸外国のカジノ施設では実践されている。これにより、テーブルで利用されているチップのポジションの全体を把握することができる。偽造チップが混入されていると、数字が合わず、たちどころに偽造を把握できることから、究極の偽造防止対策になる。技術の進展が用具そのものと、規制の在り方そのものをも変えてしまう事例になる。