地方公共団体による民間事業者選定に係る手順等詳細は、IR実施法の中で定義されることになる。一方かかる制度的制約の中で、現在あるいは将来に亘り、地方公共団体として民間事業者誘致に向けて如何なる積極的な行動がとれるのか、何が 何処までできるのかを懸念する意見もあるようだ。例えば地域独自の政策やビジョンを構築するにしても、コンサルタントだけを起用するだけではうまくいかず、実際に投資や開発行為を担う潜在的な民間事業者の考えやインプットを把握しなければ、実効性のある考えにはならない側面もある。一方、国による区域指定が何も決定していない段階で、特定の自治体が特定の民間事業者と予め組んでいるという考えは本来好ましいものではない。競争環境の無い状態で公的主体が特定の民間事業者と特定の関係を持つことは適切とはいえないこと、かつ、当該民間事業者の廉潔性に関し、国が何ら審査をしない状態で、地方公共団体と固有の関係を保持する民間事業者が国により免許が付与されるとは限らないこと等という事情があるからである。
地方公共団体は下記諸点に留意する必要があろう。
① 情報収集や一種のマーケット・サウンドを実施するために、地方公共団体が様々な潜在的投資・開発事業者と接触し、情報交換することはおかしな話ではない。忌避されるべきではないが、計画段階から特定事業者と過度の関係を持つことは好ましくない。例えば、特定事業者の考え方を自治体のマスター・プランの中にビルドインし、その他の競合主体の参画を認めない非競争的な考えは、後刻確実に競争を歪めることになるため、適切な考え方とは言えない。
② 一方、地方公共団体が考える区域・地点の戦略性、妥当性、(民間事業者にとっての)投資可能性を地方公共団体が予め市場にて潜在的投資家に対し、サウンドすることは適切な行動でもある。市場における参加者の支持や賛同を得られなければ、あらゆるプランも絵に描いた餅になる。一定地区の開発行為になる場合、周辺インフラや利害関係者との調整、許認可事項、行政にとっての負担と業務等、区域や地点次第では、行政が考慮すべき事項は大きく変わってしまう。かつ、投資家が前提とする条件とも大枠で合致していなければ、投資行為そのものも実現できない。計画段階で、修正できる点は修正すべきで、この点でも早期の計画段階における市場における対話は必須の要素ともなる。
③ 民間部門の開発・投資事業者のインタレストのレベルは、地方公共団体のコミットメントのレベルに応じて変化することに留意が必要であろう。確実に実現する可能性があること、かつ当該地方公共団体に案件を実現するという強いコミットメントが存在し、これを確認できる状況でなければ、おそらく、民間事業者の積極的な協力はまず得られない。制度的枠組みが固まらない現状では、民間事業者の興味は所詮可能性の検討でしかなく、協力のコミットメントも大した内容になるわけがない。制度の枠組みすらまだ固まっていない段階で、潜在的民間事業者のインタレストを確認するために、例えばシンガポールが実施したように、行政側が一切責任を取らないRFC(概念提案公募)をしてはどうかとする意見も一部自治体にはある模様だが、まず実現できないし、しっかりとした事業者が真面目に対応するとも想定できない。国や地方公共団体のコミットメントのレベルが未熟である段階では、明らかに未熟なインタレストしか表にでてこない。事業性を判断する要素が不明確な段階では、曖昧な提案しか出ようがないからでもある。
④ 地方公共団体が特定の民間事業者を囲い込み、一定の作業に関与させたり、逆に民間事業者が特定の地方公共団体の内部に強固な関係を構築する等したりして、今後、区域指定を睨んだ様々なアプローチは起こりうる。確実に事業性が見込まれる巨大都市は、かかるアプローチの焦点になりうることは不可避かもしれない。但し、一線を超えた関係は癒着、好ましくない慣行とみなされ、区域指定や、事業者の免許付与に際しては、否定的な影響を与えかねないことに留意すべきであろう。地方公共団体に対しても、厳格な廉潔性を要求し、不透明な関係は一切認めないとすることが制度の前提となるはずであり、区域や地点、民間事業者の選定が予め定まっているということはあってはならない。あくまでも公平、公正な手順、選定基準に基づき、健全な競争環境の下で地点や事業者が選定されることが基本となるべきだからである。