複合観光施設としてのカジノの実現は確実に地域社会にバラ色の経済効果をもたらすという考えや発想に基づき、地域経済活性化の一つの有効な手法として、カジノを含むIR実現を主張する意見が世の中には数多く存在する。地域振興の要として、巨額の投資を前提とする(MICE機能をも含む)統合型リゾートを誘致するという発想になる。カジノ施設は、条件や環境次第では、地方振興・地域経済活性化に果たしうる役割は充分すぎるほどあるのだが、全ての地方にとり、この考え方が一般的で、かつ共通的に適用できるかに関しては懸念がある。地域や地方毎に観光特性は異なること、一定の観光資源が存在し、これを補完し、強化する機能や役割の施設の在り方は地域毎に異なるからである。例えば、地方に行けばいくほど、かかる巨大な投資を要求するMICE機能は必ずしも現実的な考えにはならないという事情もある。特にMICEは、飛行場を含めたインフラ基盤の存在と、内外からのアクセスの容易さ、顧客を満足させる充分なアメニテイーや魅力の存在、消費を支える近隣地区における人口と消費市場の存在等があり、初めて機能するといってもよい。人口が少なく、インフラ整備も相対的に貧弱な地方では、MICE機能を含むカジノを核としたIR施設を創ることが、本当に適切か否かは、慎重な検討が必要でもあろう。果たして全てがうまくいくかどうか解らず、金太郎飴の如く、地方の人達全員が同じことを考えているようでは恐らく計画そのものがうまく実現できなくなる可能性が高くなってしまうからである(これでは昔の失敗したリゾート法を想起してしまう)。もっとも、予め大都市を対象としてMICEやカジノを含むIRの考えを限定的に定義してしまえば、話は単純だが、公平な制度とはなるまい。あるべき制度とは大都市に対しても地方に対しても、選定の判断基準は中立的かつ公平に策定されていなければいけない。
では地方におけるカジノ施設とはどうあるべきであろうか。この場合、法律の定義となる特定複合観光施設の考えを必ずしもMICEやIRに限定せず、地域にある観光資源を加味し、地域の事情を活かしたカジノを含む一定規模の観光施設群などを複合観光施設と見なし、これをも制度上の定義として同等に扱うということ等が考えられる。例えば、①なんらかの地域特性や、施設特性、地域ならではの工夫がある施設群、②既存の地域における観光資源との抱き合わせによる複合観光施設や地域のプラスアルファとしての観光資源としての複合観光施設、③地域の魅力や活力を引き出す工夫と施設、地域の既存の観光産業と共生できる仕組みと施設群などの考え方で、単なる賭博施設にはならない工夫と仕掛けが必要であり、法が定める複合観光施設に原則準拠しつつも、地方の特性を考慮した観光施設や地域振興に資する施設群として定義することが適切でもあろう。勿論このような場合には、投資規模は相対的に小さくなり、中小規模の施設となる可能性が高い。これに伴い関連する経済効果も限定されたものになる。
一方、施設設置総数を限定し、国が地域指定という形で、地域を選定することを前提とした場合、かかる選択肢を他の選択肢と同等に扱うためには、地域指定に際し、単純に経済効果の大きさや投資規模を選定判断基準にすることはできない。税収や経済効果の大きさのみを判断基準にした場合には、大都市や大都市近郊以外に選択肢は無くなってしまうからである。逆に地方のみを対象とする地域選択をした場合には、当初想定した税収や経済効果は全く期待薄ということにもなりかねない。施設総数をある程度増やして、異なったパターンの規模、事業モデルを大都市、地方に設置し、異なる効果を確認するという選択肢もありうる。但し、設置総数を増やすか否かは、設置数増加に伴い増大する行政実務の作業量に対応できる体制を取れるか否かの判断に大きく依存すると共に、立法政策上の判断次第でもあろう。
この様に、如何なる地域選定判断基準を取り決めるかは、極めて微妙な政治的判断を必要とする。大都市や地方都市、都会と地方では観光資源のあり方や来訪客の客筋、施設機能に対するニーズも大きく異なる可能性があり、これら差異を考慮の前提に置く必要がある。例えばイギリスやスイスでは予め施設のパターン(大、中小)を枠組みとして定め、地域選定とこの施設パターン選択とを絡ませながら、地域にふさわしい複合施設を、施設総数を限定しながら考えるという政策を取った。わが国においても類似的な考えを導入できないことは無い。
一方、国が地域の指定をして、かつ当該地域が民間事業者を選定する場合、リスクを評価し、最終的な投資や開発の判断をする主体は、国でも地方公共団体でもなく、民間事業者になる。この場合、国や制度ではなく、市場参加者が地域におけるカジノの市場性と可能性を冷静に評価し、施設の規模や投資規模の判断をするということになってしまう。施設数が限定される場合には、民間事業者の興味は当然、効率の良い大都市、大規模施設、潜在的集客力の良いところに興味が集中してしまう。また市場性が無いと判断される地域の場合には、相応の中小規模施設以外は投資の対象になりにくいという状況も生まれかねない。勿論、様々な事業者が存在し、健全な競争が成立すれば、このデメリットを一部解消することは可能である。