規制機関(カジノ管理委員会)よりカジノ運営施行者に付与される免許は、一定の前提の下に付与されるものであり、施行者がこの前提を満たせないと規制当局が判断したり、一定の不法行為や違法行為等の事象が生じたりした場合には、カジノ管理委員会によりその一時停止や剥奪などが起こりうる。この免許の欠格事由に関しては、IR実施法の枠組みの中で、内容詳細が規定されることになるのであろうが、限定列挙方式ではなく、規制機関に対し、判断に関する大きな裁量性が付与されることが諸外国における通例である。この意味では免許の欠格、剥奪事由の範囲は広くなってしまう。
一般的に、運営段階における免許の欠格・剥奪に至る事由には、下記等が考えられる。
① 施行者ないしはその構成員による深刻な違法行為、不法行為:
制度の根幹にかかわりかねない致命的な違法行為や不法行為があり得た場合、一定の手順に基づき免許が剥奪される事象になる。
② 秩序維持不能事由:
違法とは言えないまでも、地域社会において、公序良俗を維持できず、治安や秩序を維持できない状態にあると規制機関が判断した場合、規制機関の一方的判断により免許が剥奪されることがある。
③ 継続的事業不能事由:
地方公共団体と民間事業者との開発・誘致協定や、免許の付与にも拘らず、IRの実現が遅延し、相当の期間を経過しても実現する見込みが立たない場合、不可抗力事由を除く何等かの事由により、運営行為が停止され、相当の期間の経過にも拘らず、修復の見込みが無く、事業の継続が不可能と想定される事象になる。
④ 地方公共団体との協定上の債務不履行事由:
地方公共団体と民間事業者との開発・誘致協定上の民間事業者による債務不履行事由の場合で、カジノの運営継続に致命的な影響がある事象等の場合になる。健全、安全な運営が実現できえない事象でもあり、区域と免許が法的にリンクしている以上、免許を継続する価値は無いと判断されることになる。
⑤ 施行者が財務的健全性を喪失する事由:
一般企業の場合には、施行者が経済的・財務的理由により、倒産・破綻等に至る場合は、再生や更生が可能な事象であろう。一方、賭博施行を担う業の場合には、通常の再生や更生はあり得ない。例え一瞬でも財務的健全性が損なわれた場合、健全な運営が損なわれるリスクがあり、この結果、違法行為や不法行為に染まるリスクが高まるからである。かつ更生会社となり、事業自体を第三者に継承させるにしても、当該第三者は、別途免許取得の対象になり、単純に事業承継ができないことが商業的賭博の業としての特殊事情になる。
⑥ 施行者と融資金融機関との融資契約上の期限の利益喪失事由:
一般的に施行者が破綻する前の状況で、施行者の融資金融機関が財務誓約条項違反等の理由により債務不履行を宣言する状態等の場合になる。実質的に施行者が安定的な運営を継続できる状態ではなくなり、限りなく上記④に近い状態となるが、トリガーは施行者の融資金融機関の判断となる。
⑦ 納付金、税等の未払い事由:
施行者が倒産、破産事由に至らないまでの状況においても、法律的に要求される納付金や税等の支払いが滞った場合には、何等かの事由により財務的健全性が損なわれている証拠でもあり、状況次第では、免許剥奪事由たりうる。
上記の通り、施行者と融資金融機関との間の規範は国の免許や自治体との協定上の規範より、厳格度のハードルが高くなる。免許上の違法行為はなくとも、例えば施行者が資金繰りに窮し、融資契約上の期限の利益の喪失事由をもたらしたとすれば、明らかに事業者の財務的健全性を損ねる事象でもあり、融資契約上のデフォルトとなる。これは地方公共団体との協定上の債務不履行事由ともなりかねない。この結果、これが規制機関による免許の剥奪事由に繋がることになってしまう。即ちこれは、制度上企図していなくとも、実務上は、実質的にクロス・デフォルト(一つの契約上のデフォルトが他の契約上のデフォルトを引き起こすこと)となる関係性が構築されることになることを意味している。尚、例え民間事業者がデフォルトとなっても、国による区域指定は当面の間維持し、地方公共団体や民間金融機関に対し、一定の猶予期間を与え、修復・治癒の機会を与えることは合理的な考え方になる。また、米国のネバダ州やニュ・―ジャージー州は、これら州においてカジノの免許を得た事業者が海外事業において当該事業者のパートナーたる共同出資事業者や海外事業子会社が不法行為、違法行為をした場合には、本国における親会社の免許剥奪事由に繋がるという厳格なシステムを採用している。企業としての清廉潔癖性は海外投資事業においても、あるいは海外投資事業の共同パートナー会社に対しても等しく要求されるべきという考え方になる。一端外国で悪に染まれば、本国でも同じということになるのだが、わが国ではこのレベル迄規制をかけることが必要か否かに関しては今後の議論となる。