では規制を担う国の機関とは、如何なる組織となるべきであろうか。この場合、まず考慮されるべきはその権能と必要とされる業務量であり、ここから組織の在り方を考えることが必要である。民間事業者を関与させる場合、企業、個人等の免許申請を審査し、これを認証・認可することが必要になると共に、機材やシステムの技術標準等の設定や運営規則の制定、施行に関する監視等かなりの業務量を抱えることが前提になる。かつまた、規制機関とは、かかる業務を可能にする行政権限を具備していなければならない。伝統的な公営賭博における主務官庁の役割とは開催日や開催条件等、施行する公的主体を対象とした単純な認可行政であって、申請の内容を法の規範に照らし、形式的整合性を判断するだけでしかなかった。カジノの場合には、これだけではなく、より能動的な規制機関の役割が期待されていることになる。尚、この役割や機能を地方公安委員会や地方警察に委ねる可能性は現実的ではない。かなりの専門性や能力、調整力が要求される事務になり、地域毎にバラバラに処理できる内容ではなく、やはり国としての統一的な規制機関を設けることが合理的であり、かつこの方が社会的費用も安くつくと考えられるからである。また、公安的な業務の性格より、既存の国家公安委員会に規制を委ねてはどうかという議論もあるがこれも適切であるとも思われない。規制と法の執行を担う権能が単一主体に極度に集中する構図は、強力な権限を生み出すことになり、腐敗、汚職等の温床となりかねないからである。
この規制機関を如何なる法律上の組織とし、国の機関としてどう位置づけるべきかに関しては、様々な可能性があり、立法政策上の選択肢になる。但し、行財政改革の建前上、国の組織は肥大化を防ぐことが政府の建前でもあり、公務員の定数には制度上の制約がある。公務員総数は減らすことは求められてはいるが、これを増やすことは極度に難しい。よって、新たな国の組織を作るためには今ある別の組織を潰さざるを得ないなどという慣行が存在しており、単純な形では、新しい国の機関を作れないのが我が国の実情になる。勿論、これは立法政策上の問題であって、政策として変えられないということではない。
現状における可能性としては、理論的には下記等の選択肢が考えられる。
① 主務省庁内の一組織として構成し、既存の行政組織で対応する:
ゲーミング関連規制が、単純認可行政であるならば、既存の行政機構でも十分対応できるが、かなりの専門性を必要とし、行政内部に異質の行政的機能を抱え込むことになり、既存の行政組織にてこれを担うことは極めて非現実的である。規制や監視をどのレベルまで実施するかの考え方にもよるが、想定されるかなりの専門的な業務量を考慮した場合、まず不可能な選択肢になる。
② 上記の前提で八条委員会を設け、諮問・答申を得つつ、既存の行政組織が対応する:
八条委員会とは国家行政組織法第八条に規定された非常勤の審議会等(諮問委員会)になる。行政府の判断に関し、より中立的な機関を設け、透明性を高めるという考えである。この場合、この八条委員会に独自の事務組織を設け、限りなく行政府の通常の業務と切り離した業務を担わせることは不可能ではない。上記①と比し、より透明性のある考え方となるが、強い行政権限を8条委員会が抱えることにはやはり行政実務上問題があり、この選択肢も現実的には機能しない公算が強い。
③ 主務大臣の下に三条委員会を設け、省庁とは独立した国の機関を構成する:
三条委員会とは、国家行政組織法第三条に基づく、常設委員会となり、準立法権限を保持し、行政府や立法府から独立した存在として構成される国の機関である。行政府や立法府からの独立性、中立性を付与され、公権力行使を含む行政処分が可能な別組織ともなるが、我が国ではその存在は極めて稀な存在でしかない(国家公安委員会、公正取引委員会等が既存の三条委員会になる)。専門的な業務を集中的に、かつ効率的に実施するためには、極めて効果的、理想的となるが、その実現の為のハードルは高い。
④ 主務大臣の傘下に独立行政法人を設け、独立行政法人を規制機関とする:
公務員型と非公務員型に分かれる。後者にする場合、確かに公務員の員数は増えないが、私人に権力行為を含む行政行為を委ねることが適切かという議論は起こりうる。前者の場合には、公務員の総数は増える形になる。独立行政法人を国の規制機関として設立し、主務大臣は同一とはいえ、省庁とは離れた行政機関として、規制や監視の業務を担うことは不可能ではない。この独立行政法人の経営組織を委員会組織とし、有識者をその構成員とすることでより中立的にするという考え方も取れる。但し、③に比較すると必ずしも権限のあるクリーンな組織とはならない。
現実に如何なる組織を設けるかは、如何なる業務内容と業務量が規制機関に課されるのか次第になる。民間主体を何らかの形で関与させ、その認証や認可を前提とする場合には、かなりの業務量が前提とならざるを得ず、単純許認可行政の枠をはるかに超えてしまう。かかる場合には、別途、既存の行政機構の枠外で、しっかりとした国の規制機関を組織として構成することが適切であると考えられる。諸外国の事例を見ると、③と類似的な考えを取っている国が過半である。