カジノ施行に伴う公的部門にとってのメリット(税ないしは交付金・納付金がもたらす収益)を如何なる目的で、如何なる公的な使途に支弁するのかは大きな政策的選択肢の一つになる。また政治判断が優先される事項でもあり、政党間や議員個人間で意見が分かれるポイントでもある。一般的な国の方針とは、歳入は全て一般会計に繰り入れ、特定目的支出の為に特別会計を設けて歳入を括ることは好ましくないとする考えになる。確実に財政規律が甘くなると共に、特別会計自体が管理できにくくなるからである。もっとも賭博施行に伴う収益を単なる税として徴収し、一般会計に充当するだけでは政治的にはアピール度は殆ど無い。あるいは国債や公債等の借金の償還原資に充当するというのも、あまりにも脳がない。一方、政治家は、新しい財源を創出するときは、その使途をも政治的判断で特定目的の為に予算を振り向けるという判断に傾斜しがちである(一般会計では予算配分が充分いかない分野へ、政治的に梃入れし、予算を配分するという考えになる)。
わが国で賭博関連の実質的課税を税とせず、交付金、納付金としているのは、政治的に特定目的への配分支出がやりやすいこと共に、このための配分のメカニズムを作ることに行政府と立法府の利害が一致したという背景があった(議員は特定目的のための財源を確保し、役人は天下りの仕組みと利権を確保するという妥協になる)。賭博からの収益は、国民の賭博遊興という特定的な消費行為に伴う一部賭け金の吸い上げに過ぎず、国にとってもプラスαの収益という性格があるために、特定目的の支出のために新たな財源を作るという政治的な主張が通りやすい性格のものなのであろう。一方、景気の変動次第では、この賭博関連収益は大きく変動する性格があるため、特定の歳出に固定(ロック・イン)してしまうと、需要が減退すれば、税収は減り、特定の歳出そのものに充当することが困難になってしまう公算が高い。この意味でも本来国にとってはプラスαの収益でしかないことになる。諸外国では、単純に一般会計に充当したりする場合もあるが、年金会計等の特定目的のための既存会計に追加的に充当したり、歳出目的を法律で特定列挙し、特別勘定からかかる特定目的のための歳出に用いるという場合も多い。一般的には、賭博許諾のために国民や住民の同意を取得することが前提となる制度の場合には、政治的判断により、国民の理解と支持を受け入れやすい特定支出費目に収益を充当するという傾向が強い。
この意味では、賭博施行に伴う国の収益の使徒とは、
① できる限り、明確で、国民が共有できる政策目的のもとに、国民にとり解りやすい歳出の使途であること、
② (地域ではなく)国民の誰にもその便益が均等であるべきこと、
③ 特定の公的主体や特定の主体に利することなく、公平な使途であること、
④ 誰もが納得し、反対しない財源として用いること
等が理想的な考え方になる。かつ、歳出に伴い、国民間あるいは地域間での不公平感をできる限りなくす配慮がある方が好ましいことはいうまでもない。
民主党が指導した超党派議員連盟の時代(2010~2012年)は、国にとってのカジノ収益を国民の基礎年金勘定へ充当し、広く、薄く、国民全員がメリットを享受すべきというアプローチをとった。少子高齢化時代の社会的要請に応じ、国にとっての受け取り収益を全額国民年金の基礎勘定に充当し、全ての国民がメリットを得られるとする考え方になる。単一特定目的のための「納付金」として、これを構成することが国民の理解と支持を得やすくする。勿論、これは政治的な選択肢の一つでしかない。一方、2011年から2012年の間に考慮されたIR推進法(案)では、「納付金については、東日本大震災等の大規模災害からの復興に要する費用に充てることができるものとする」旨の規定が記載された。この法案を策定した時点が、東日本大震災直後でもあったため、政治的にかかる文案が合意されたという経緯になる。但し、その後の展開は、震災復興に関しては、既に十分ともいえる財源が別途手当されており、既に政治的なアピール力もなく、政治家誰もが支持しない状況となってしまった。この結果、2012年末、再度政権を取った自民党政権では、与野党も含めて様々な主張が出されるに至っている(例えば地方からでる苦学生に対する奨学金、文化振興への支出、観光振興諸施策等への支出等である)。今後議論を詰めるとして、議論を先送りにしているため、極めて曖昧な状況になっていることになる。如何なる具体の使途にするかは政治判断になるが、①如何なる目的で、②如何なる率とし、③如何にこれを徴収し、かつ配分するかという派生的な問題を含めた全体的な枠組みの検討が必要とされるのであろう。