平素は当学会に格別のご高配を賜り、厚く御礼申しあげます。
「ギャンブリング*ゲーミング学会」は、2013年9月1日より「IR*ゲーミング学会(英語名称:Japan Academy of Integrated Resort & Gaming Studies)」に名称を変更いたしました。それに伴い、ホームページもリニューアルしております。「ギャンブリング*ゲーミングコラム」は「IR*ゲーミングコラム」に名前を変更し、引き続き更新していきます。
今後ともどうぞよろしくお願い申しあげます。
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最新トピックス
外洋クルーズカジノとは、外洋を航行する観光目的の観光クルーズ船をいい、この中でクルーズ船の一つの余興として提供される船舶内の一定区画を区切ったカジノ施設をいう。クルーズ船の中で宿泊し、一定期間、外国の港に寄港しながら、観光を楽しむという仕掛けになるが、船舶という閉鎖空間の中で様々なエンターテイメントを提供することが通例でもあり、遊興としてのカジノもその中に含まれる。勿論規模的には大きな施設とはならない(専らカジノ賭博を提供することのみがその目的となるギャンブル船なる範疇もあるが、これは外洋クルーズカジノとは言えない。例えば、米国では明確にこれらの法律上の定義は異なる)。尚、外洋においては船舶の籍地国の法律が適用されるため、我が国の船籍である船舶は例え外洋にあっても我が国の法律が適用される。よって、現状の制度のままでは、カジノ賭博がこの中で認められる事は無い(現状我が国船籍の外洋クルーズ船では、一種の金銭を賭すことのない疑似カジノが提供されており、景品が賞品がわりとなる。かつそのあり方も個別に公安当局より意見を受けることになる)。一方、我が国の船会社が便宜置籍船として軽課税国に船籍を登録し、カリブ海で運用している外洋クルーズ船ではカジノ賭博が行われている(船舶会社が専門的カジノ運営事業者に委託し、費用とリスクを分担する仕組みだが、どこの国からの規制をも受けないという事例も多い)。外洋を航行する船舶は、国内法と共に、国際法が複雑に関連することもあり、単純なオペレーションとはならない。
2006年、自民党政権時代の政務調査会・観光特別委員会・カジノ・エンターテイメント検討小委員会で日本外航船協会(Jopa)が招請され、外洋クルーズカジノを認めるべきかが議論になったことがある。議員の過半は、外洋クルーズカジノ程度は認めてもよいではないかというものであった。これは、乗船時点で、本人確認も含め、乗客全員が正確に捕捉され、かつ富裕層が多いこと、船舶自体は閉鎖空間でかつ外洋航行中なされる限りにおいて、不正・いかさま等が限りなく起こり難い環境であること、運営規模も極めて小さなものでもあり、否定的インパクトも、社会的問題も未成年賭博すらもまず起こり得ない状況であること等の理由による。船舶の中における指揮官は船長になり、船長自らが特別司法警察官(「司法警察職員等指定応急措置法~昭和23年法律第234号」としての立場を行使できる立場にあるが、閉鎖空間でもあり、そもそも行われる行為は、大きな問題をもたらすとも想定できない。勿論これが大きな経済効果をもたらすことも想定しにくい。制度や規制の観点からは、単純に認めてしまえば済みそうな話にも思えるが、外洋クルーズカジノは、自民党ないしは超党派議連が基本とする許諾賭博としてのカジノの大きな目的からは、逸脱する考えになってしまう。これは下記事情があるからである。
① 現在の法案の骨格となる考えは、地方公共団体に一定の発意の枠組みが存在し、一定の複合観光施設区域を国に申請させ、国がこれを指定し、指定を受けた地方公共団体が民間事業者を選定し、選定された民間事業者が国の規制機関の認証を得て、初めてカジノを運営できるという内容になる。外洋クルーズ船は私企業が保持する動産でもあり、国際観光に資することはできるが、地域振興や、特定観光施設区域の概念からは遠くなってしまい、国と特定地方公共団体との関係に入ることは難しくなる。法目的の中に入り難いという事情になる。
② 勿論、指定を受けた地方公共団体が、かかる本邦籍のクルーズ船舶の寄港地となり、寄港地負担金を要求することにより、特定のクルーズ船によるカジノ賭博施行を考慮することも不可能ではないが、明確に経済効果も、雇用効果も、集客効果も限られ、本来の法目的から大きく逸脱する考え方になってしまう。
③ 日本船籍による外洋クルーズ船は船舶数も限定され、かつこれを所有し、運営する船舶会社も企業として限定される。競争性が限定される市場になり、カジノ賭博を認めることは専ら特定の民間主体に直接的・間接的な便益を与えることに繋がりうる。果たしてこれが適切といえるか否かとする議論は存在する。
果たして適切か否かは議論が分かれるが、現在考慮されている制度の考えでは、かかる外洋クルーズ船内のカジノはあくまでも例外事項にならざるを得ない。(地方公共団体を何らかの形で組み込むかは別の論議として)、船舶所有者・船舶運営者(船会社)、ゲーム運営事業者、国の規制当局(カジノ管理委員会)との間で業務、リスク、便益を分担しあうスキームを前提とすれば、実現は不可能ではない。この場合、例外的モデルとして、国の機関が直接関与しつつ、その運営を包括的に民に委ねる手法を採用することなどが考えられる。例えば、下記等を想定することができる。
① 例外的モデルとして地方自治体ではなく、国の機関となるカジノ管理委員会が直接関与することにより、特定外洋クルーズ船舶内におけるカジノ施行を認める。
② 運営を担う民間事業者と関連する職員は、国の機関から別途免許を取得する必要がある。
③ 船舶所有・運営会社と(免許を得た)民間事業者間で運営委託契約を締結し、国の機関がこれを認証する(あるいは当初より三者間契約とする)。
④ 運営監視と安全なる施行を監視する役割を特別司法警察官である船長に委ねる。あるいは船長の指揮権の下に規制機関の査察官を常駐させ、監視にあてる。
⑤ 国の機関は一定率を納付金として徴収、残りを船舶所有・運営会社と民間事業者間で分担する。尚、規制の費用は全て施行収益から負担させる。
他に考えられる合理的な手法は無い。問題は、かかる例外的アプローチを制度の中で認めるか否かということに帰結する。
Ⅹ我が国における新たなゲーミング賭博法制(基本)