11月29日、与党自民党の総務会は、特定複合観光施設区域推進法案(IR推進法)を了承し、政権与党内部における合意形成が実現した。維新の党、生活も既に内部的合意形成ができており、公明党、民主党は一部党内に慎重派もいるため、党としての公式な合意形成には至らない模様である。みんなの党もアジェンダにIRが記載されている以上当然反対はしないと想定されるが、公党としての合意形成手順はとっていない模様だ。議連に参加する6党の全てが党として足並みを現段階でそろえることが難しいことは当初から想定されていたが、超党派議員連盟としては余程の大きな環境変化がない限り、議員有志により会期末となる来週前半に法案を上程する予定である。法案は衆議院内閣委員会に付託され、会期末となるため、継続審議扱いとなり、来年通常国会において、予算案処理後審議が開始されることが想定されている。
この事実は下記をもたらすことになると考えられる。
● 政権与党が衆参両院の過半数を押さえ、尚かつ一部議員を除く野党の過半の議員も賛同している以上、来年度通常国会において、上記IR推進法案が可決されることはまず間違いないと判断すべきであろう。
● 但し、与党の一角を占める公明党、あるいは民主党の一部には反対ないしは慎重を期すべきという議論もまだ根強いのが現実である以上、(単純な法律であるにも拘らず)しっかりとした審議時間を要求される可能性が高い。推進法を可決することにより、なし崩し的に、IRカジノが実現しかねない。よって現段階から熟議をすべきという論理なのだが、反対の声を抑えるためにも、国会対策上一定の審議時間を考慮せざるを得ないことはありうる。時間はかかる。但し、これは法案可決を止める動きにはなりえない。
● 与野党議員による議員立法案の上程は、地方公共団体によるIR誘致のための調査・検討を胎動させる可能性が高い。地方議会レベルでは議員による推進ないしは誘致の活動が起こると共に、これが行政府を動かし、検討のための枠組みや、自治体間での意見交換、あるいは政府に対する要望等の行動が起こることになる。法案が上程されれば、直ちに行動を起こすことを表明している自治体も存在すると共に、誘致実現に向けた自治体間の競争が確実に加熱することになる。しっかりとした地域なりのビジョンと構想を議員立法案に基づき練りながら、地域単位での合意形成を重ねる試みが必ず起こる。また、今後地方公共団体は重要なステークホルダーとして、詳細制度設計に際し、政府に対し、意見具申する主要な主体になる。
● 立法府による法案上程、可決に向けた与野党の意思が明確になり、かつ可決が確実に想定されると判断する場合、立法府の動きに呼応し、政府内部で何等かの準備・検討体制を作る動きが確実に生じる。この場合、当然対応するのは内閣府であり、既存の閣僚委員会や会議体の枠組みを活用し、例えば有識者を含む小ワーキング・グループを組成する等して政府としてのウオームアップを図ることが、想定される。但し、これが順調に動き始めるか否かは、永田町における議論の進展次第でもあり、今後の大きな課題になる。
● IRカジノに対しあからさまに反対する声や反対する団体は現段階では限られるが、確実に反対運動が組織化される可能性がある。現状の議連案に対する反論や異論も出てくると想定され、国民的な議論が活性化する可能性が高い。一方、なんでもありの議論や、過剰な期待感が市場で高まる可能性もある。これに伴い、一部の人達の嫌悪感も醸成されることになり、混乱も起こりうる。合理的、冷静な議論が必要なのだが、制度の枠組みがまだ固まっていないために、議論の方向性がぶれる可能性もゼロではない。
IR推進法案の上程は、我が国において新たなエンターテイメント法制を創設する新しい幕開けになる。但し、詳細議論はこれからのスタートになる。単純なプロセスにはならないのだが、政治の強い意思こそが新しい仕組み、新しい政策の実現を可能にする。