2013年11月12日に超党派議員連盟総会で採択された「IR実施法案に関する基本的な考え方」の中では、区域数・施設数の総数を限定するという考え方とともに、「大都市型」と「地方型」の二つの類型として統合型観光施設(IR)を考えることを提唱している。これまで表にでず、一見唐突に決められたようにも思えるが、かなり時間をかけ、議連幹部内で段階的に合意形成が図られた考え方になる。なぜかかる考え方をとったのか。
現在までに議論になっている仕組みとは、IRが可能となる区域数を国が予め限定し、公平かつ透明性が担保された一定の手順、判断基準に基づき、地方公共団体による提案を審査し、国がこれを指定・選定するという前提をとる。かつこの前提のもとで、指定を受けた地方公共団体が、別途開発や投資を担う民間事業者を選定するという基本的な考え方になる。国の立場からすれば、地方公共団体を差別なく、公平に扱うという建前になる。予め特定の区域や自治体を想定して制度設計をしたわけではなく、制度的には、あらゆる地方公共団体に同等の機会を与えるという考えでもあった。但し、国と自治体との間に成立するこの前提は、指定を受けた地方公共団体が、実際の開発・投資を担う民間事業者を別途選定するという仕組みと併用する場合、当初想定した公平性を担保できなくなる可能性が高くなる。なぜか。
下記の事情が生じうるからである。
- 区域数を限定し、国がこれを指定するという枠組みは、地域間(地方公共団体同士)での競争を喚起することになる。但し、大都市と地方都市、あるいは地方における観光都市とは同じ土俵で評価できにくいという事情がある。当該地域の潜在的市場性や戦略性(後背地に人口密集地区があるか否か、交通インフラのアクセスの容易さや利便性が確保されているか否か、飛行場への至近距離にあるか否か等)次第では、施設や投資の規模は大きく異なることになり、これに伴い民間事業者の潜在的興味も大きく異なってくる。
- 明らかに大都市は、より良好な事業性が期待され、予め成功を約束されているに等しい市場環境になる。潜在的な民間事業者は当然投資の対象としては、市場規模が限定される地方観光都市よりも、効率が良い大都市を志向する傾向が強くなる。即ち、国の考え方としては公平だが、市場において民間事業者が選択的行動をとることにより、市場が歪む可能性がある。
- 同時に、もし大都市と地方都市が同じ選定判断基準で競争する場合、正当な評価や判断ができるか否かに関してはかなり微妙になる。税収や雇用等の経済効果や事業性は遥かに大都市が地方都市を凌駕することになり、評価の判断基準を政策効果の高さや事業性、実効性、実現性等においた場合、当初から大都市があらゆる側面で有利になりかねない。経済性や事業規模に拘泥した場合、公正な競争は成立しない。よって、大都市と地方都市を同じ物差しで比較することは、必ずしも公正な競争にならない可能性がある。
上記問題を解決する一つの手法として、想定される地域・区域の特性に応じ、IR施設を類型化して、「大都市型」と「地方型」の二つに分類し、この各々の類型毎に、区域総数を限定すること等が考えられる。大都市型のイメージは東京や大阪等の巨大消費地・人口集積地区に立地するIR施設となり、本格的なMICE機能を保持する大規模施設になる。一方、地方型とは、地方観光都市をイメージしたIR施設となり、大都市と比較すると中小規模施設で、地方都市の観光特性や地域環境をより考慮した機能を具備するIR施設になる。IR施設を類型化し、提案を競わせることにより、巨大都市と地方の観光都市が同じ土俵、同じ物差しで評価・審査の対象になることを防ぐことができる。巨大都市は複数の巨大都市間で、また地方の観光都市は地方の観光都市間で提案を競うことになり、これにより、評価基準の同等性が保持され、自治体間の競争の公正さを担保することができる。
施設類型を予め定義し、かつ総数を限定し、地域を選定するという手法は、過去英国(2005年統合賭博法)、スイス(1998年カジノ及びカジノ施設法)等で実践されたことがある。いずれも大規模都市型施設には施設規模や施設の内容を規制しないが、逆に地方型は設置されるテーブルや機械の数を規制することで過剰な投資規模にならないことを全ての前提としたアプローチでもあった。市場をセグメント化し、市場における全体供給量を規制する考え方と特定地域に偏りがでないようにする考え方の妥協の産物でもあったが、英国では、地域選定の在り方につき政治的疑義が生じ、うまく実現できなかった。一方、スイスでは大方うまく機能しているが、地方観光地カジノ施設の中で、1ケ所のみ需要が無く、ライセンスを返上した地域が生じている。地方観光都市の場合には、需要を予測し、適正な施設規模を考慮することは、地域の事情も絡むため、かなり難しく、工夫も必要となる。我が国でも同様に、地方観光都市におけるIRの在り方は、慎重な検討が必要だろう。このためには、地域なりの主体性や特性を生かすことがすべての前提となるため、設置要件等に関し、詳細な規制を設けることは得策であるとも思われない。地方都市型IRの定義と要件はできる限り柔軟な発想を許容できる制度的仕組みが好ましいといえる。